実は怖い!セリアック病の症状とは【診断や検査も詳しく解説】
<監修医師 豊田早苗>
近年、「グルテンフリー」という言葉を耳にすることが増えました。「グルテンフリーダイエット」というダイエット法も存在するほどです。
「セリアック病」はこのグルテンと大きく関係する病気なのです。今回はこの「セリアック病」について詳しく解説していきます。
気になる所から確認してみよう
セリアック病とは
セリアック病はセリアックスプルーとも呼ばれ、小麦や大麦など穀物に含まれるたんぱく質「グルテン」に対する免疫反応によって腸の粘膜が損傷を起こす病気です。
グルテンを摂取する事で、異常な免疫反応が起こり、小腸の突起部分(腸絨毛)が攻撃されます。
小腸は胃から送られてきた食物の栄養を吸収する役割があるため、腸絨毛が攻撃を受け、小腸が機能しなくなると栄養素の吸収が出来なくなります。
そのため、セリアック病は、「吸収不良症候群」の一種とされており、小児の時期に発症すると発育障害を引き起こすことがあります。
しかしこの病気は必ずしも乳幼児期から発症するというわけではなく、発症する時期は人それぞれ異なります。
このセリアック病の発症には遺伝的な要因が大きいとされています。セリアック病になりやすい遺伝子が分かっており、欧米人に多く日本人には少ないとされています。
しかし、食事の欧米化が進むにつれ今後日本でも増えていくかもしれません。
そして、この病気の最大の特徴は自己免疫疾患であり、一度発症すると生涯グルテンを除去していく必要があるという点です。
セリアック病の元凶のグルテンとは
ここでは「グルテン」についてもう少し詳しく解説していきたいと思います。
グルテンは小麦などの穀物の胚乳から生成されるたんぱく質の一つです。しかし、最初からグルテンというものが存在しているわけではありません。
「グリアジン」と「グルテニン」という2種類のたんぱく質が絡み合って初めてグルテンが生成されます。
小麦粉に水を加えると、先ほどの2つのたんぱく質が反応しグルテンができます。そして、捏ねるほど弾力性ができ生地が伸びるようになります。
小麦の種類によって、グルテンの含有量は異なるため生地の伸び具合も変わってきます。そのため、使用目的によって使われる小麦が違うのですね。
このように聞くと、グルテンといえば小麦を使った食べ物でパンやうどん・パスタなどを思い浮かべると思います。
しかし、日本食にも欠かせない天ぷらもサクサクの衣をつけるためには小麦を水で溶かし使用していますし、「麩」もグルテンから作られています。
現代において、グルテンを含まない食品を探すほうが難しいほどグルテンは日常的に摂取しているものなのです。
そして、グルテンは食べ物以外にも使われています。化粧品の中には乳化剤や保湿剤としてグルテンを使用していることがあります。口紅などは実際に口に入るため注意が必要です。
腹痛だけじゃない!セリアック病の症状
セリアック病には多種多様な症状があり、とても個人差が大きい病気です。また、小児期と成人期では出現する症状が違ったりします。
ここでは、セリアック病の症状について詳しく解説していきます。
消化器症状
小腸を自分で攻撃してしまう病気のため、まず初めにお腹の症状を想像されるでしょう。
実際、初期の段階ではガスが溜まりやすくなりお腹が張る・下痢や便秘を繰り返すなどで腹痛が生じます。
そして、徐々に栄養が吸収しにくくなるため体重が減少したり持続的に下痢が続いたりします。そして、ひどくなってくると便が白っぽい脂肪便となり悪臭がするようになります。
白っぽい便についてはこちらを参考にして下さい。
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これらの消化器症状は子どもがセリアック病を発症したときによくみられる症状とされています。大人になって発症した場合は消化器以外の臓器に症状がでることがあります。
また、セリアック病は小腸より手前の胃や食道には影響がありませんが、小腸より先の臓器にも障害が生じることがあります。
意外かもしれませんが、大腸ではなく「肝臓」「胆嚢」「膵臓」で症状がでると肝炎や糖尿病などになる可能性もあるのです。
成長障害
小腸での栄養の吸収が十分でなくなるため、小児期(乳児)から成長がゆっくりになります。
栄養吸収のバランスが崩れるため体重が減少することが多くなり、思春期も遅れるため女性では初経が大幅に遅れることがあります。
大人では、男女ともに不妊の可能性があったり女性では流産を引き起こす可能性があるといわれています。
栄養吸収障害
食べたものは食道を通り、胃で消化され十二指腸から小腸へと移動していきます。
本来、栄養素の吸収は小腸で行われ必要なものは取り入れ、不要なものは大腸へ移動し最終的に便として排出されます。
セリアック病はこの小腸で栄養素を吸収する腸絨毛が攻撃されてしまうため、通常吸収されるべき栄養素を取り入れられなくなってしまいます。
成長に影響があること以外にも、大人では慢性疲労などの症状が栄養吸収障害によって引き起こされます。
<鉄欠乏性貧血>
鉄分の吸収が阻害されるため、体内の鉄の貯蔵ができずに鉄欠乏性貧血となってしまいます。
貧血は動悸やめまい・倦怠感などを引き起こしますが、ゆっくり進むと体が慣れてくるため症状が自覚しにくいこともあります。
そして、貧血の改善に必要不可欠なビタミン群も吸収できません。
貧血と診断され鉄剤の補給などの治療を始めても、小腸の絨毛は障害されているため鉄分の吸収はできないという悪循環になってしまいます。
貧血の症状についてくわしくはこちらをみて参考にして下さい。
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貧血で倒れる症状や対処法【甘く見てませんか?】
<骨粗鬆症・骨折>
鉄やビタミンと同様にカルシウムの吸収も阻害されます。
骨はカルシウムを貯蔵する役割があり、骨吸収と骨形成(簡単に言うと破壊と再生)を繰り返しています。
しかし、カルシウムが不足するとうまく骨を再生していくことができず骨粗鬆症を発症しやすくなります。結果、骨折もしやすい状況となります。
その他
消化器症状や吸収障害以外にも、グルテンに対する免疫反応として骨や関節の痛み・関節炎・手足のしびれなどの神経症状が出現することもあります。
大人では消化器以外の臓器に症状がでることも多く、口内炎ができやすくなる・月経周期が不規則であるなど一見セリアック病とは関係しないのではないかと考えられる症状があります。
セリアック病は大きな病気に繋がる危険性がある
セリアック病の症状にも消化器症状以外の意外な症状につながることを解説してきました。ここでは、セリアック病と関係の深い病気について解説していきます。
ここで解説する病気については、セリアック病と診断されてから発症するというものではありません。
これらの病気や症状で治療していても、実はセリアック病が原因だった。ということが考えられる疾患や症状です。
疱疹状皮膚炎
発疹の出る皮膚炎のなかでもかゆみの強いもので、グルテンに対するアレルギーなどから生じます。発生部位は肘や膝・背中や腰・尻・頭皮に多くみられ、ほとんど毎回同じ場所に現れます。
発疹が出る前に皮膚がヒリヒリしたりかゆみを生じることがあり、体の両側に対称的に同じサイズ・形で出現するのが特徴です。
セリアック病患者の15~25%がこの皮膚炎を患っていると言われていますが、消化器症状が全くなく皮膚症状だけという人もいます。
しかし、消化器に症状はなくとも小腸はダメージを受けているのです。
疱疹状皮膚炎は長年に渡り症状が出続け、かゆみが強いためとても辛い病気です。
「ダプソン」という抗生物質で治療する方法もありますが、副作用が強い薬になるため一番良いのは、グルテンを摂取しないことと言われています。
過敏性腸症候群
「過敏性腸症候群」は日本でもよく聞かれる病名だと思います。お腹が弱い・電車で急にお腹がくだるなど症状をイメージしやすい人も多いのではないでしょうか。
この病気はストレスが大きく影響していると言われており、日本でも珍しくない病気です。
症状としては下痢や便秘・下痢と便秘を繰り返す・ガスが溜まりやすいなどがあります。
腸と脳には「腸脳相関」といって大きく影響しあっていることがわかっています。そのため、精神的ストレスなどから腸の症状がでやすくなっているといえます。
この過敏性腸症候群もセリアック病の初期の消化器症状と似ており、実はグルテンによって起きていた症状であったという可能性も考えられます。
グルテンの摂取を控えて症状が良くなるようであれば、セリアック病やグルテン不耐症などの可能性もあるかもしれません。
過敏性腸症候群の治療方法についてはこちらも参考にして下さい。
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精神症状
先ほども説明したように、腸と脳には深いつながりがあります。ストレスがかかっていたり、不安が強いと胃の調子が悪くなったり下痢や便秘を引き起こすことは一般的に知られていることだと思います。
実際に、消化器疾患のある患者はお腹の症状だけでなく精神・神経症状の訴えが多いそうです。
腸は「第二の脳」といわれており、腸脳相関は以前より注目されています。
そして、幸せホルモンといわれている「セロトニン」は不足するとイライラしやすく怒りっぽくなりますが、実はこのセロトニンは腸管で作られているのです。
セリアック病ではうつ病や気分の落ち込み、イライラなどの精神症状がみられることがあり、原因は解明されていませんが「腸脳相関」が影響しているのではないかと考えられています。
実際に、グルテン摂取をやめ、症状が改善したとの報告もあるそうです。
発達障害
近年、発達障害という言葉をよく耳にするようになり認知されるようになってきました。そして、一部で発達障害は腸内環境が大きく影響しているという説がでています。
自閉症やADHDとセリアック病は一見するとつながりはないように感じますが、先ほども説明した「腸脳相関」が同じように影響していると考えられます。
そして、発達障害ではセリアック病を発症していなくても、グルテンに対して何らかの反応を起こしていることが多いとされています。
これらの精神症状や発達障害に関しては、セリアック病と直接的な因果関係があるとは言い切れません。
しかし、実際にセリアック病の症状として含まれていたり、様々な研究の中でグルテンとの影響が示唆されています。
しかし、腸の機能が障害されてしまうセリアック病と脳の機能に異常を生じてしまう精神疾患や発達障害は「腸脳相関」からもわかるように切り離せない問題であると思います。
セリアック病とよく混同される2つの病気
セリアック病には様々な症状があること、グルテンが影響を及ぼしていることが分かっていただけたと思います。
ここでは、グルテンが原因となる病気が他にもあるためセリアック病と他の病気との違いを解説していきます。
小麦アレルギー
食物アレルギーはたくさんの種類があり、今では商品の一つ一つにアレルギー表示がされています。
セリアック病は小麦に含まれるグルテンが原因ということを考えれば、それは小麦アレルギーとうことではないのか?と疑問に思うかもしれません。
小麦アレルギーは小麦に含まれるたんぱく質に反応し免疫反応を起こします。
症状や程度は様々ですが、皮膚のかゆみやじんましん・消化器症状・呼吸困難などが即時型のためすぐに出現します。アレルギーの検査はIgE抗体を調べると診断がつきます。
そして、小麦アレルギーは乳幼児に多くみられ消化器管が成熟していくにつれ、摂取することができるようになることもあります。
小麦アレルギーについてくわしくはこちらを見て参考にして下さい。
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グルテン不耐症
不耐症はアレルギーとは違い、消化分解する酵素が不足あるいは欠如していることをいいます。
すぐに反応は出ず時間が経過してから体調の変化を感じることが多くなります。そのため、アレルギー検査のような即時型の検査では反応が出ないのです。
「グルテン不耐症」は非セリアックグルテン感受性ともいわれ、症状はセリアック病ととてもよく似ています。
しかし、セリアック病で特徴的な抗体が検査をしても見られず小腸の腸絨毛も損傷されないということが大きな特徴です。
セリアック病も上記のどちらの病気も、小麦(グルテン)を除去することが治療法となりますが、実際の症状の発生機序はことなります。
セリアック病の診断には検査が不可欠
セリアック病に似た症状の病気は他にもありますが、セリッアック病にしかない検査項目があります。ここでは、セリアック病の診断に必要な検査について解説していきます。
一般的には血液検査を行い総合的に見ていきます。
セリアック病では様々な栄養素の吸収が阻害されるため、健康診断などでも測定する貧血や出血傾向がないか、肝機能や栄養状態(アルブミン)はどうかなども調べられます。
アルブミン値についてはこちらを参考にして下さい。
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コレステロール値は正常よりも低い値を示すことがあります。また、肝臓や骨・小腸での状態がわかるアルカリ性ホスタファーゼも重要な検査項目となります。
そして、抗筋内膜抗体(EMA)・抗組織トランスグルタミナーゼ抗体(tTG-IgA)はセリアック病に特徴的な抗体となるため、これらに高いレベルの反応があればセリアック病の可能性がとても高くなります。
最終的な確定診断を行うためには、内視鏡検査で小腸の腸絨毛の状態を確認し一部組織を取り生検することで診断されます。
日本では即時型のアレルギー検査は一般的に知られていますが、遅発性アレルギーの検査やセリアック病の抗体検査は一般的ではありません。
検査を希望する場合は、検査を行っている病院を確認するようにしましょう。
今回は「セリアック病」について解説しました。
日本ではまだ、あまり知られていない病気ですが食事の欧米化に伴ってこれからは日本でも増えていく可能性もあります。
お腹の調子が良くないことが多いなど、心当たりのある方は日ごろの食生活を改めて見つめ直してみるのもいいかもしれません。
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