昏睡状態とは4つの状態です【回復の可能性について解説!】
<監修医師 春田 萌>
「昏睡状態」という話はよく耳にしますが、実際にはどんな状態なのかご存じない方も多いかと思います。昏睡状態とはどのような状態を指すのか知ることで、その原因や回復の可能性についても理解を深めることが出来ます。
今回は昏睡状態がどんな状態か、回復の可能性がどれくらいあるのか解説します。
昏睡状態とは
深く眠り続ける、刺激、目覚めない、反応しない
刺激に対し反応しない
医学的に昏睡状態とは、「刺激に対し反応を示さない」状態に分類されます。他人が呼びかけても反応がありません。痛みなどの刺激にも反応を示しません。外部からの刺激に反応だけは返す(ただし思考や会話は不可能)植物状態とは異なります。
ただし脊髄反射は認められます。そのため、一切の反応が見られず、瞳孔も開いたままになる脳死状態とは区別して考えられます。
深く眠り続ける
医学的には反応しない状態を指す昏睡状態ですが、見た目はまるで眠っているようです。目を覚まさないままでも排泄行為は行われているので、ただ単に「眠っている」とはいえない状態になります。意識障害とも呼ばれる場合があります。
同じ意識障害でも、「昏迷状態」だと、強い呼びかけに対し僅かな覚醒をみせることがあります。
昏迷状態についてくわしくはこちらを見て参考にして下さい。
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目覚めない
昏睡状態は軽度から重度までの症状の分類が出来ます。軽度の昏睡状態の場合、「痛み」という刺激を与えた場合、患者が昏睡から意識を取り戻す場合があります。ただし無理に昏睡状態から引き戻すことで、精神錯乱を引き起こす可能性もあります。
重度の昏睡状態は「深昏睡」と呼ばれ、痛みを与えても意識が戻ることはなく、深く眠ったまま目覚めません。
昏睡状態になる原因
脳幹損傷、脳疾患、内臓疾患、薬の中毒、感染症など
脳幹損傷などの激しい外傷
強く頭部を打ち付ける外傷を負った場合、脳幹に損傷や圧迫が起き、昏睡状態に陥ります。外傷を受けるだけではなく、脳の血管が圧迫された場合も同様に昏睡に陥りやすくなります。
また外傷が原因となり「器質性精神障害」という精神障害を引き起こす場合があります。外傷により脳神経に異常が生じると精神的な疾患が引き起こされますが、器質性精神障害の場合、意識障害(昏睡状態)やせん妄が起きます。
脳疾患
脳の疾患のうち、特に昏睡状態になりやすい病気は以下の通りです。
【脳卒中】
脳卒中とは、脳に酸素を送る重要な脳動脈の一部が破れたり詰まることにより引き起こされる症状です。脳に十分な酸素が送られなかった結果、意識障害や言語障害、呼吸困難などの症状が引き起こされます。
【脳動脈瘤】(のうどうみゃくりゅう)
脳の中にとおる血管の一部が膨らんだ部分を脳動脈瘤と呼びます。膨らんだ血管は他の血管や脳神経を圧迫するため、昏睡状態を作り出しやすくなります。
【くも膜下出血】(くもまっかしゅっけつ)
脳動脈瘤が破裂した状態を、くも膜下出血と呼びます。出血によりさまざまな機能が阻害されるため、昏睡状態を引き起こしやすくなります。
【熱中症】
熱中症とは高温多湿の環境に、身体の機能をうまく合わせることが出来なかった結果引き起こされる身体各部の異常を指します。屋外でも室内でも、高温の環境下に身体を晒し続けることで発症します。
初期症状としてはめまいや失神、嘔吐や吐き気ですが、重症化すると昏睡状態に陥るなど、脳の中枢神経が機能を破綻させます。
熱中症の症状についてくわしくはこちらを見て参考にして下さい。
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内臓疾患
腎臓や肝臓などに異常がある場合も、昏睡状態を引き起こす可能性があります。代表的なのは以下の病気です。
【肝臓癌】
肝臓に引き起こされる癌です。症状が進行し、末期になると昏睡状態に陥るなど、意識障害を引き起こします。
【肝炎】
肝炎とは肝臓に炎症が起き、細胞が壊死する病気です。原因は生活習慣や免疫不全、ウイルス感染などさまざまですが、日本の場合はB型肝炎などのウイルスを原因とする肝炎が殆どです。
最初は嘔吐や食欲不振など、よくありがちな症状をみせますが、そのまま放置しているとやがて肝硬変や肝臓癌を併発し、昏睡状態に陥り死に至る場合もあります。
【劇症肝炎】
劇症肝炎は急性肝炎の中でも特に、広範囲の肝臓の細胞が短期間(8週間前後)に壊死する病気です。早期に治療を開始しなければ昏睡状態に陥り、死亡率が高くなります。
【肝硬変】
肝硬変とはその名の通り肝臓が硬くなっていき、正常な機能を果たせなくなる病気です。その原因は肝炎ウイルスやアルコールの過剰摂取などさまざまです。
初期には食欲不振や体重激減、全身の倦怠感などが表れ、重症化すると昏睡状態に陥ります。
肝硬変についてくわしくはこちらを見て参考にして下さい。
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【肝性脳症】
肝臓の機能が正常に機能しないためにアンモニアなどの有害な老廃物が体内に蓄積され、発症する病気です。肝硬変など他の病気との合併症としてあらわれます。
主に昏睡などの意識障害を伴い、脳の中でもとりわけ精神に関する機能が阻害されます。
【急性腎不全】
何らかの原因で、突然腎臓の機能が低下してしまい、身体の中のバランスが保てなくなく病気です。血液検査で兆候を掴むことは出来ますが、それ以外にも尿検査や病歴から病気を特定することも出来ます。
また急性腎不全から「尿毒症性脳症」(にょうどくしょうせいのうしょう)を発症してしまう場合もあります。これは身体の中で処理しきれなかった毒素が脳機能まで損なわせてしまう病気です。初期にはせん妄症状やてんかん症状を引き起こしますが、重症化すると昏睡状態に陥ります。
【糖原病】
糖原が過剰に臓器に蓄積されることにより引き起こされる疾患です。先天的な病気であり、糖原病を引き起こす原因によっていくつかの型に分類されます。
中でも血液中に乳酸が異常に蓄積される乳酸アシドーシスは急に発症する上、放置していると昏睡状態に陥ります。昏睡状態を引き起こした約半数の患者が亡くなっており、注意が必要です。
【糖尿病】
ホルモンの分泌異常に陥る病気です。インスリンの分泌が減少するために血糖値が下がりにくくなり、高血圧状態が続くとさまざまな病気を併発することになります。
あまりにも血糖値が高くなると昏睡状態など意識障害を引き起こします。
薬の中毒
薬の服用によっても昏睡は引き起こされます。主な病気をお伝えします。
【急性アルコール中毒】
急性アルコール中毒とは、長期にわたる症状ではなく、短期間に過剰にアルコールを体内に摂取したことによって起こる症状です。初期症状では運動機能に支障が出る程度ですが、重度になると昏睡などの意識障害を引き起こします。
【有機リン剤中毒】
有機リン剤は農薬として多用される化学物質です。非常に強力な殺虫作用がありますが、そのため人間の身体の中に入り込むと有害です。
誤飲してしまうと痙攣やよだれが止まらなくなる、瞳孔が縮小するなどの他、昏睡と言った脳機能中枢を破壊する場合もあります。大量に服用すると1時間以内に中毒症状が出ますが、少量を服用してしまっても数日後に中毒症状が現れることもあります。
【ウェルニッケ脳症】
ビタミンB1が不足すると引き起こされる病気です。また日常的に大量のアルコールを摂取している人も発症しやすく、アルコールとの関連性があると考えられています。
当初は軽いと思っていた意識障害が、そのうち昏睡状態に変わる場合もあります。
【植物毒】
いわゆる「食中毒」として知られ、人体に有害な成分を持つ食べ物を口にしたことで発症します。近年では物産館などに毒のある植物が出品され、知らずに口にした消費者が死にいたるケースもあり問題になっています。
有名なのはイヌサフランやスイセンですが、その他身近な野菜でもあるじゃが芋も芽の部分に毒性を持ちます。誤って摂取してしまうとめまいや嘔吐の他、呼吸困難や昏睡状態に陥ることもあります。
感染症
細菌やウイルスが原因として発症する可能性のある病気をお伝えします。
【日本脳炎】
脳に直接、ウイルスが感染・発症する病気です。脳炎は原因によりいくつかの種類に分かれますが、中でも日本脳炎は蚊を媒介として日本全土で猛威をふるった病気です。
現在では予防接種や蚊の駆除などにより、年間の患者数は10人程度にまで激減しています。初期症状は突然の高熱や悪寒、意識障害ですが、悪化すると昏睡状態に陥ります。昏睡状態になり四肢の麻痺が起き、最終的には死に至る病気です。
【単純ヘルペス脳炎】
重い症状の急性脳炎です。日本脳炎と同じく最初は突発的な高熱やけいれん、頭痛が起き、やがて昏睡状態に陥ります。
その原因はヘルペスウイルスで、口の周りに出来る口唇ヘルペスなどと同じウイルスになります。誰もが感染しやすいウイルスですが、免疫力が低いときや初めてヘルペスウイルスに感染した乳幼児などが重症化し、単純ヘルペス脳炎に発展する場合が殆どです。
【リッサウィルス感染症】
リッサウイルスを保有する野生動物との接触により感染する病気です。頭痛や発熱、全身の倦怠感の他に精神錯乱や昏睡などの中枢神経系の症状を発症します。発症から2週間以内には死亡するということもあり、大変危険な感染症です。
【亜急性硬化性全脳炎】
麻疹に感染した後、数年にわたる潜伏期間を経て発症する感染症です。
今のところ治療方法は確立しておらず、国の難病指定を受けています。
昏睡状態から回復の可能性について
話しかける、音楽、さする、諦めない
一度昏睡状態に陥ったら、回復の可能性はないのでしょうか。残念ながら多くの場合、昏睡状態に陥ると治療も難しくなかなか回復しないのが現状です。特に高齢者になればなるほど、回復の可能性は低いです。
ただし中には昏睡状態に陥り医学的に匙を投げられながら、意識を回復させた患者さんも存在します。意識を奇跡的に回復させた患者さんにはどんな共通点があるのか、意識回復の可能性についてまとめましたのでご覧下さい。
親しい人が話しかけるのを諦めない
脳にダメージを負い、刺激に反応を示さなくなるのが昏睡状態です。しかし、脳の機能のうち、最も早く回復する機能が聴覚とも言われています。家族や友人が積極的に話しかけることで、脳に何らかの変化が起きる可能性があります。
音楽をかける
患者さんの好きな音楽をかけ続けたところ、覚醒に繋がったという実例があります。「話しかける」という行為と同じく、昏睡状態の患者にとって「聴覚」は真っ先に回復の可能性のある器官です。
意識はなくても患者自身がポジティブになれるような、「すきなもの」「すきな言葉」による関わりが効果を発揮しています。
身体をさする
脊髄反射は失われていないことからも、昏睡状態に陥った後もずっと外界の刺激に無反応なままとは限りません。何らかのアクションを忘れずにとり続けることが希望に繋がります。
まとめ
昏睡状態は外界からの刺激に反応を示さない状態をさします。その原因はさまざまですが、まずは昏睡状態に陥る前に治療を受けることが重要です。
もしも昏睡状態に陥ったとしても、諦めずに声をかけたり相手に触れ、好きな音楽をかけることで意識を取り戻した実例があります。
諦めずに、希望を持って関わっていきましょう。
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