酒石酸カリウム・ナトリウムの性質や4つの効果の解説ガイド!
<監修医師 まっちゃん>
朝の連ドラで「酒石酸の生成」という場面が出てきたため、「名称だけは聞いたことがある」という方もいるのではないでしょうか。
実は私たちの生活に幅広く使用されている存在でもあります。そこで今回は、酒石酸カリウム・ナトリウムの性質や効果について解説します。
気になる所から確認してみよう
酒石酸とはなんだ?!
まずは酒石酸の正体について解説します。
酒石酸の成分
酒石酸(しゅせきさん)とはヒドロキシ酸( (CH(OH)COOH)2 )の一種で、無色の固体です。酸味のある果実に多く見られる有機化合物で、食塩粒に似た結晶体を形成します。
ほとんど味は感じず、ほんのりと苦味がある程度です。果実に含まれる微生物の発酵作用により生成される物質です。
ナトリウム・カリウムと酒石酸を反応させると「ロッシェル塩」が合成されるため、第二次世界大戦中は日本でもさかんに酒石酸が生産されました。
吸湿性が非常に高いので、保管の際には湿度が大敵です。またワインから完全に酒石酸を除去してしまうと日持ちがしなくなり、ワイン自体も酸味を帯びて質が低下します。
酒石酸が含まれているもの
酒石酸はその名の通りワインから主にとれる成分です。
酸味のある果実の中でも葡萄に多く含まれており、葡萄を加工して作られるワインが最も多くの酒石酸を含んでいます。
そのため年代物のワインは、まれに液体中や瓶の底に澱のような物が結晶のように沈んでいる沈殿物のように見えますが、この結晶の正体が酒石酸になります。
ワインボトルだけではなく、ワインを精製するのに使用した樽などにも酒石酸は含まれています。
また葡萄以外にもレモン、オレンジ、りんご、梅に酒石酸は含まれており、こくのある高級な酸味の演出に欠かせない素材です。
その他ワインに含まれる成分についてはこちらを参考にして下さい。
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酒石酸カリウム・ナトリウムの意外な性質
ワイン生成の副産物として生まれる酒石酸カリウム・ナトリウムですが、実は意外な使われ方をしている時代もありました。どのような使い方をされていたのか解説します。
酒石酸はソナーに有効
酒石酸にカリウム・ナトリウムを化合させて出来上がるのが「酒石酸カリウム」「酒石酸ナトリウム」です。そして合成された酒石酸カリウム・酒石酸ナトリウムのことを「ロッシェル塩」と呼びます。
このロッシェル塩は、実は潜水艦用のソナーに欠かせない素材なのです。
音は海中を音波振動として伝播していきます。潜水艦から敢えて音を出し、敵艦が範囲内に存在すると音波振動が跳ね返ってきます。
その跳ね返りを機械で探知するために電気信号変換が必要になります。音波振動を電気信号に変えるのに必要なのが圧電素子ですが、ロッシェル素子はこの圧電素子に活用できるのです。
本来は、ワインを醸造する際に副産物として生成されるのが酒石酸カリウム・ナトリウムですが、海軍にとっては軍事転用できる重要な素材でした。
そのため物資不足の日本軍部にとって、ワイン醸造によってできる酒石酸は非常に価値のあるものだったのです。現在では潜水艦のソナーには別の物質で代用がきくようになっており、酒石酸は使用されていません。
酒石酸カリウム・ナトリウムは兵器に活用できる
海軍だけではなく、陸軍も酒石酸カリウム・ナトリウムを必要としていました。これはロッシェル塩が海水の脱塩剤に活用できたためです。
第二次世界大戦中、陸軍は南国の島々に展開しており、海水から真水を生成する方法は軍事物資の確保に重要な意義を持ちました。
このように、第二次世界大戦の日本では、酒石酸を兵器に転用するための需要があったため、全国の酒蔵にワインの注文が入り、戦時中とはいえワインの生産量が増加することになりました。
光学活性体
光学活性体(光学異性体)とは分子モデルが互いに大きさが等しいのに正負が逆になっているものを指します。不斉炭素原子を基準に左右対称な構造式です。
酒石酸は光学活性体であり、酒石酸からこの光学活性体の原理が発見されました。同じような特質を持つ物質としてはアミノ酸があげられます。
酒石酸カリウム・ナトリウムの4つの効果
兵器に転用できる以外にも酒石酸カリウム・ナトリウムは様々な効果を発揮します。どのような効果があるのか解説します。
pH調整
酸味のある物から生成される酒石酸カリウム・ナトリウムは、食品などに酸味をつける効果があります。この特製を活かし、保存性に適したpH値に調整することが出来ます。
その他のpH調整剤についてはこちらを参考にして下さい。
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電気を帯びさせる
酒石酸カリウム・ナトリウムはある一定の条件下で力を加えると、物質に電気を帯びさせることが出来ます。またこの性質を活用し、電気分解により塩分を抜くことが出来ます。
免疫力強化
カリウムにはそもそも高血圧予防効果、むくみの改善、筋肉を正常に保つ効果があります。酒石酸カリウムも同様で、体内に摂取されると酸性とアルカリ性のバランスを程よく調整しエネルギーの均衡を保ちます。
そのため新陳代謝を適度に保つことができ、免疫力を強化できます。ただしカリウムを摂取しすぎると体内のバランスは崩れ、疲労感を高める作用が働いてしまいます。
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疲労回復
酸性物質を分解してエネルギーを得るメカニズムを「クエン酸サイクル」と呼びますが、酒石酸にもクエン酸と同じ働きがあります。エネルギーを得ることで疲労回復に繋がり、活性酸素の発生も抑制します。
そのためレモン汁の代わりに酢の物などに酸味を加えるために酒石酸を加えると、より高級な酸味を加えることが出来ます。
酒石酸カリウム・ナトリウムの使われ方
終戦後、酒石酸採取を目的としたワインの増産こそ行われなくなりましたが、現在でも酒石酸カリウム・ナトリウムは幅広い分野で活用されています。
軍事目的以外の酒石酸カリウム・ナトリウムの使われ方について解説します。
食品
炭酸水に酒石酸が活用されることがあります。炭酸水とは文字通り、水に炭酸(二酸化炭素)を溶かしてつくるのもです。
二酸化炭素は重曹とクエン酸の化合により生成できますが、クエン酸の代わりに酒石酸を加えてもできます。また食品に酸味を加えつつ毒性がほぼないため「酸っぱい」味を食品に添加する用途で使用されています。
ベーキングパウダーや酸味料
酸味のある果物から生成される酒石酸は、添加された商品に酸味を加える効果を発揮します。またパンやお菓子を膨らませる効果があり、特に酒石酸水素カリウムが膨張剤として利用されています。
フェーリング液
フェーリング液とは、糖やアルデヒドの検出に使用される試薬です。このフェーリング液は硫酸銅と酒石酸カリウム・ナトリウム、水酸化ナトリウムを化合した水溶液です。
また、試薬としてお茶に含まれるタンニン量の測定に使用される場合もあります。
この方法を「酒石酸鉄吸光光度法」と呼び、タンニンと酒石酸鉄が化学反応を起こすと茶の色が黒紫色に変色する特質を利用しています。
タンニンの含有量によってこの色彩が変化するため、目視でタンニンの含有量を推し量ることが出来ます。
このほかにもソルビン酸の水蒸気蒸留にも活用されます。
水蒸気蒸留は複数の物質が混ざり合った液体から、それぞれの物質の沸点の違いを活用して分離させる方法です。なお、試薬として使用した後の酒石酸は国のガイドラインに則った廃棄物の処理を行う必要はあります。
一般人にはなかなか馴染みのない使用方法ですね。
鍍金・めつき液
電気を帯びやすい性質を利用し、鍍金やめつき液に仲介役として活用されます。
pH調整剤
酸性とアルカリ性のバランスを整える性質を利用して、pH調整剤として活用されます。
化粧品
さきほどのpH調整の特質を活かし、化粧品にも活用できます。肌細胞が酸化すると肌の質が荒れるので、化粧品が酸性に偏りすぎないようにする役割があります。
またケミカルピーリングにも活用でき、皮膚に酒石酸を塗布すると古い角質を取り除き、ターンオーバーを促進させることが出来ます。
医薬品
「ゾルピデム酒石酸塩錠」という薬に酒石酸カリウム・ナトリウムが活用されています。
この薬はジェネリックで、酸化チタンなどが配合されていますがジェネリック以前の睡眠薬に比べ副作用が少ないとされており、危険性は幾分下がります。
通常の睡眠薬ですと、「過度に眠くなりすぎて」しまい、安全性に疑問が残ります。しかしゾルピデム酒石酸塩錠の場合は、夜に服用しても朝まで眠気を持ち越すことはありませんので安全です。
ただし過度な服用は依存性や前向性健忘を引き起こしますので、適量を服用することが重要です。また場合によっては酒石酸が体内のpHを引き下げることが原因で胃腸障害が起きることもあります。
酒石酸カリウム・ナトリウムの性質や効果を解説しました。
戦時中は軍需品として欠かせない物質ですが、平和になった現在でも様々な分野で活躍しています。
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