上行結腸癌の特徴的な症状 【ステージの進行度や手術方法を解説!】
<監修医師 春田 萌>
近年、日本でも食文化の変化によって急増しているという「上行結腸癌」。
他人事ではない病気ですが、その症状や治療法について知っている人は少ないのではないでしょうか?
そこで「初期症状」を見逃さないためにも上行結腸癌の特徴な症状など詳しく解説します。
上行結腸癌とはどのような病気?
近年、食の欧米化に伴い日本でも大腸がんが急増しています。大腸がんには「直腸がん」と「結腸がん」がありますが、特に「結腸がん」の発症が増えているといわれています。
その理由として考えられるのは、「動物性脂肪を多く含む食品の多量摂取」です。
動物性脂肪を摂取するとそれらの消化を促す「胆汁酸」が多く分泌されますが、この消化の際に発生する物質の中に「発がん性物質」が含まれており大腸の粘膜にがんを発生させるといわれています。
大腸は小腸から続く長さ約2mの消化器官で、始まりの「盲腸」、盲腸から上に向かう「上行結腸」、そこから横に向かう「横行結腸」、そこから下に向かう「下行結腸」、S字状に曲がっている「S状結腸」、下に伸びる「直腸」、肛門括約筋がある「肛門管」に分けられます。
大腸の機能は、小腸で栄養を吸収された食べ物の水分を吸収し、便を作り排便時まで貯蔵します。直腸は排便時に便をスムースに押し出す機能があります。
大腸の構造は4つの層で成り立ち、内側は粘膜で覆われています。がんの発生には、
(1)大腸の粘膜にできるポリープの1つに「腺腫」と呼ばれる陽性の腫瘍があり、この腺腫ががん化して発生するものと、
(2)粘膜の正常な細胞ががん細胞に変化するものの2タイプがありますが、多くは腺腫のがん化によるものであるといわれています。
*がんが発生しやすい部位*
大腸がんの診断や治療を行う際に、「大腸を7つ・大腸壁を4つ」に区分します。
大腸がんが発生しやすい部位は「直腸」と「S状結腸」の2カ所で全体の70%を占めていますが、上行結腸がんなどの「右側結腸がん」も増加傾向にあります。
*右側結腸がん*
盲腸がん・上行結腸がん・横行結腸がんは大きくなるまで自覚症状が出にくく、しこりとして発見されるケースが多くなります。
その際、腹部の張り・慢性的な出血による貧血が見られます。
*左側結腸がん*
下行結腸がん・S状結腸がん・直腸がんは下血・粘血便などの出血や便秘、下痢、便が細くなるなどの症状によって発見されることが多くなります。
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*発生要因*
大腸がんの発生要因として挙げられるものは次のようなものがあります。
✅生活習慣によるもの・・・肥満・飲酒など
✅食生活によるもの・・・赤肉(牛・豚・ヒツジ肉など)や加工肉(ソーセージ・ハム・ベーコンなど)の多量摂取 ✅身体的要因・・・高身長の人の方が発症率高い ✅遺伝的要因・・・直系の親族に家族性大腸腫症・リンチ症候群にかかったことがある人がいる |
また40代から発症率が増加し、50代で加速、高齢になるほど高くなります。大腸がんの発症率・死亡率は男性が女性の2倍と高く、男女差が大きくなります。
リスクを減らすには、穀類・豆類などの食物繊維食・チーズ・魚類・牛乳などをバランスよく摂ること、
また果物や野菜だけを摂るよりも「キノコやこんにゃく」などの水に溶ける繊維で保水性の高い食材を摂ることで大腸の粘膜保護効果が期待できます。
「乳酸菌」にも大腸がんの抑制効果があるといわれています。また肥満予防に「運動」をすることも効果的です。
定期的な健診を受けたり、便に血が混ざる・腹痛などの異常があった場合は検査を受けましょう。早期発見が完治のカギとなります。
上行結腸癌の特徴的な症状
特徴的な症状
上行結腸癌の代表的な症状は「血便」・「便通異常(便秘や下痢)」・「腹痛」・「便が細くなる」・「残便感」・「お腹が張る」・「腸閉塞」・「貧血」・「しこり」です。
初期の場合はほとんどが2cm以下の小さながんで、自覚症状がない場合が多いようです。
肛門出血が起きて検査をしたり、たまたま大腸がん検診で発見されるケースが大半です。進行大腸がんの症状はがんの発生場所や大きさなどによって様々です。
その他の大腸がんの前兆についてはこちらを参考にして下さい。
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結腸がんの症状
盲腸と上行結腸のがんは以下の理由で発見されにくい傾向があります。
✅腸の幅が太く便通異常が起こりにくい
✅この場所の便は液状である
✅出血していても排便までに時間がかかる
そのため発見された時にはがんは大きくなっており、腹部腫瘤(腹部のしこり)・出血による貧血・全身倦怠感、などの症状が現れます。
直腸がんの症状
直腸がんの出血は比較的「鮮血に近い状態」であることが多く、血液が便に付着していることで発見されます。
がんによって直腸内が狭くなり、「便が細くなる」・「排便後の残便感」などの症状が現れます。残便感は便が排出された後もがんがあるため、便意をもよおすために起こります。
進行度を表す5つのステージ
ステージ(病期)の症状による分類
がんの進行度はステージで表します。大腸がんのステージは次の3つの症状によって決められます。
✅がんが大腸壁の中にどのくらい浸潤(侵入)しているかの「深達度」
✅どのリンパ節までいくつ転移しているかの「リンパ節転移の程度」
✅肝臓や肺など大腸以外の臓器や腹膜への転移があるかの「遠隔転移」
ステージ(病期)の進行度による分類
ステージは進行度が最も低いステージ0から進行度が最も高いステージⅣまでの5段階に分けられます。
治療前のCT検査などによるステージ予測に加え、手術で切除した組織の病理検査の結果によって最終的なステージが判定されます。
このステージから大腸がんの治癒率や再発リスクを予測できるので治療方針を決定するに当たって「重要なカギ」となります。
*ステージ分類*
✅ステージ0・・・粘膜の中にがんがとどまっている
✅ステージⅠ・・・がんが大腸壁にとどまっている
✅ステージⅡ・・・がんが大腸壁外まで浸潤している
✅ステージⅢ・・・リンパ節転移がある
✅ステージⅣ・・・遠隔転移(肝臓や肺)または腹膜播腫がある
上行結腸癌の手術方法
がん細胞を除去
大腸進行がんの場合一番有効な治療方法は「がん細胞を完全に取り除く」ことになります。
近年、「がんのある場所や大きさ、浸潤の深さなどの総合判断」によって早期発見であれば開腹手術を行わなくても「大腸内視鏡でがん細胞を摘除(取り去る)」ことができるようになりました。
早期大腸がんの約60%は内視鏡手術が行われています。
しかし大腸内視鏡で摘除できないがんは以下の3つの状態を基準に切除範囲が決められ開腹手術が行われます。
✅深達度
✅リンパ節への転移
✅遠隔転移(大腸がんの場合、肝臓や肺への転移が多い)
大腸がんの外科治療においてはがんのある腸管とリンパ節を切除することが基本となります。
切除するリンパ節の範囲はがんの部位と手術前に予測したがんのステージによって決まり、早期がんであればリンパ節は切除しない場合もあります。
がんが周囲の臓器に浸潤している場合は、それらの臓器も一緒に切除します。
結腸がんの手術
粘膜内に発生した早期がんであれば「リンパ節転移」の可能性はないため内視鏡手術が行われます。
粘膜下層のがんは「リンパ節転移が約10%の確率」で起こるため、手術か内視鏡かは深達度で判断されます。
また内視鏡手術後の病理検査でリンパ節転移が認められた場合は追加切除を行います。
進行がんの場合は転移の可能性があるリンパ節を検討し、十分な腸間切除とリンパ節の郭清を行います。
これらはがんのある場所によって切除範囲が変わってきます。
✅盲腸・上行結腸がん・・・結腸右半切除術・正中切開・右傍腹直筋切開
✅横行結腸がん・・・横行結腸切除術・上腹部正中切開・左右腹直筋切開
✅下行結腸がん・・・結腸左半切除術・正中切開・左傍腹直筋切開
✅S状結腸がん・・・S状結腸切除術・下腹部正中切開・左傍腹直筋切開
直腸がんの手術
直腸がんの手術は8割が「直腸切除術」であり、術後の後遺症である排便回数の増加や便失禁を防ぐため「結腸嚢」という結腸を折り返して袋状にしたものを肛門管とつなぎ合わせます。
早期で肛門付近の直腸にできたがんの場合は、開腹手術ではなく肛門からの剥離操作で自然肛門の温存ができます。
この方法には肛門括約筋(かつやくきん)といって肛門を開閉する筋肉を「切る方法」と「切らない方法」の2種類あります。
肛門側から取れない場合は開腹手術を行います。
直腸がんの手術には大きく分けて2タイプあり、1つはがんのある直腸と一緒に肛門も切除し結腸に人工肛門を付ける「直腸切断術」。
もう1つは肛門括約筋を残して結腸と肛門管、または残った直腸をつなぐ「肛門括約筋温存切除術」になります。
このようにがんが肛門の近くにあるため手術で切除、または肛門の機能が失われてしまう場合には「人工肛門」を付けるようになります。
人工肛門とは自分の腸の一部をお腹の表面に出して便を出すようにしたものです。
外科手術の合併症
手術により下痢や軟便、便秘などの便通異常や吐き気が生じることがあります。
それ以外にも、腸閉塞・縫合不全(腸間のつなぎ目がうまくつながらない)・創傷感染(傷口の細菌感染)・出血・骨盤神経障害などの合併症がおこる場合があります。
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また直腸がんの場合には神経や筋肉がすぐ近くにあるため切除範囲によってはこれらも一緒に切除しなければならず、排尿障害・性機能への障害が生じることがあります。
化学療法・放射線療法・免疫療法
大腸がんの基本的な治療は「手術」です。
しかし残された可能性のあるがんの抑制、再発を防ぐ目的の補助療法としてステージⅡ以上の病期の手術後、手術が困難である場合の代替え療法として「化学療法」を行います。
抗ガン剤には内服・注射の両方があり患者の体力や生活に合わせて選択されます。
また大腸がんは肝臓への転移が多いため、転移が肝臓だけの場合は肝臓の病巣飲みに抗ガン剤を分布させるため薬剤を肝動脈から注入することもあります。
「放射線療法」は直腸がんに対しての補助療法として行います。がんに放射線を当て治療します。
「免疫療法」は免疫賦活剤を使って体内の免疫細胞を活性化させます。化学療法などとの組み合わせによってがんが小さくなる効果が高まるといわれています。
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