便失禁とは?原因や種類を解説【治療法も詳しく紹介します】
<監修医師 豊田早苗>
便失禁には色々な原因があります。気づかないうちに下着が汚れていたりトイレに駆け込んだものの間に合わなかったりすることもあります。
また介護現場でも便失禁があるかないかでその負担が大きく変化することもあるのです。知っているようで知らない便失禁について、詳しく解説します。
気になる所から確認してみよう
便失禁とは?
便失禁とは、排便のコントロールができない状態のことを指します。無意識だったり意思に反していたり、個人差はあるにせよ便が漏れたり排泄されるという症状のことです。
胃や腹部の痛みや嘔吐のように症状を指し示す言葉で、身体のどこかにコンディションの悪い部位が発生することから引き起こされるものです。検査してみたら脳に原因があって便失禁に結びついていたということもあります。
尿失禁というと「尿が漏れる」という状態がすぐに理解できますが、「便失禁」というのはその形状からちょっと理解するのが難しいかもしれません。
下痢様の液状だったり固形であったり、量もちょっと下着が汚れる程度で済むものからそんなことでは手に負えない大量であったりと様々なのです。
排便の仕組みを知る
食物は咀嚼して唾液に含まれる消化酵素とともに胃に移動します。さらに胃で消化液と混合して蠕動運動で小腸へ移動します。
小腸ですい液と胆汁により分解しながら食物の栄養分を吸収します。
次に大腸へ移動し、腸内細菌や大腸の蠕動運動で水分が吸収されて粥状だった食物は固形に姿を変えてS状結腸・直腸へたどり着きます。ここまでが食物が便になる仕組みです。
今度は排出される仕組みです。
肛門には内肛門括約筋(ないこうもんかつやくきん)という不随意筋があります。意思とは無関係に動く筋肉が不随意筋で、意思で動かすことができる随意筋の外肛門括約筋(がいこうもんかつやくきん)と対になっています。
直腸の内壁に便が接触した刺激で内肛門括約筋が弛緩して神経を伝わり脳へ便が届いた信号を送ります。
そこで初めて便意を催すことで外肛門括約筋が連動して弛緩して便を排出するという仕組みなのです。排便後は内肛門括約筋・外肛門括約筋・恥骨直腸筋が収縮して肛門が閉じるようになっています。
便失禁の3つの種類
排便がコントロールできずに便が漏れてしまう便失禁は状態によって分類されています。
切迫性便失禁
便失禁患者のうち15%強がこの切迫性便失禁だとされています。
「トイレだ!」と便意を感じてトイレにたどり着くまでの時間が我慢できずに便が漏れてしまうというものです。
例えばショッピングモールのようにトイレが果てしなく遠いということではなく、リビングからトイレまでのごく短時間でさえ間に合わないという状態のことです。
弛緩する肛門の筋肉を「締める筋力」が低下して発生することが多い便失禁です。
漏出生便失禁
切迫感も感じずに普通どおりトイレに行って洋服や下着を見たら汚れていた、何となく肛門あたりに違和感を感じるなと思ったら便が漏れていたなど、自覚のないうちに便が漏れだしてしまうものです。
便失禁患者数のうちこの漏出生便失禁であるとされるのが約半数程度です。
混合性便失禁
切迫性便失禁と漏出性便失禁の両方が起こっている状態を混合性便失禁と呼びますが、便失禁患者のうち30%〜40%が混合性であると言われています。
なぜ便失禁が起こるのか?6つの原因
なりたくはない便失禁、どうしてそんな症状が起こってしまうのでしょうか。意外に身近な原因もあるのです。
加齢:誰にでも起こる可能性が
避けては通れない加齢というものが一番大きな原因とされているのです。
加齢は筋力をはじめ、様々な機能が低下してくるものです。意識に関わりなく肛門を締めている内肛門括約筋や骨盤底筋の力が弱くなり、便失禁につながるのです。
肛門損傷:出産で起こることも
自然分娩での経産婦では、30%弱が便失禁を経験しているというデータがあるそうです。
出産直後だけでなく、時期を経てから発生することもあるため注意が必要な原因です。出産時に肛門括約筋やその周辺に存在する神経が傷つくことが要因となります。
出産時に起こり得る身体のトラブルについてはこちらも参考にして下さい。
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肛門や直腸周辺の手術
肛門の手術といえば痔が思い浮かびますが、これは肛門括約筋を切開する場合が多々あります。
また直腸やS状結腸などに癌が発生していれば切除手術となりますし、その場合は肛門括約筋の一部を切除することになり直接的な筋力の低下につながります。
疾患・外傷による神経障害
糖尿病や脳血管障害などを要因として発症する末梢神経や中枢神経障害があります。
また、外傷による脊髄損傷や髄膜炎などにより便意を伝えるための伝達神経の損傷によって便失禁を発症することがあります。
その他の髄膜炎の後遺症についてはこちらを参考にして下さい。
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髄膜炎による後遺症に注意!【頭痛やてんかんが起こるかも】
過敏性腸症候群(IBS)
過敏性腸症候群は、直接肛門括約筋などに影響があるというわけではありません。下痢と便秘を頻繁に繰り返すことで直腸に過剰な刺激が伝わり続けます。
繰り返す便意によって直腸が知覚障害を起こしたところに水様の下痢が起こるとトイレまで我慢することができずに突発性の便失禁を起きてしまうというものです。
ストレスや生活環境
そんなことが原因で便失禁なんて・・・と思うかもしれませんが、切迫性の便失禁の原因となっていることがあります。
若年齢ほど精神的不安・ストレスが要因であることが多いようです。緊張しやすいいわゆる「あがり症」でお腹が痛くなってトイレに駆け込んだものの間に合わなかった、とう経験がある方もいらっしゃるかもしれません。
他にも若い人なら学校や職場のトイレが汚くて行きづらい・いつ行ってもいっぱいだということなどが精神的負担になって、便失禁を招くこともあるのです。
一人で悩まないで!こんな人は起こりやすい
自分がもし便失禁になったら・・・絶対人に言えない、病院に行くなんてもってのほかだと思い悩むことでしょう。でも便失禁は病気、誰に起きてもおかしくないものなのです。
健康な20歳から65歳の人300人を調査したところ、4%の人が便失禁を経験しているというデータがあるそうです。65歳以上の人では1500人を調査して約8%の人が経験しているという結果が出ています。
この数字を多いと思うか少ないと思うかはそれぞれですが、もしこれだけの数の人が一人で思い悩み、専門医に相談もできずに孤立してしまったらそれは社会的にも問題ではないでしょうか。
便失禁と聞くと、高齢者や要介護の人を想像していたかもしれませんがそれだけではありません。確かに数値的には高齢になる程その症状の経験者は増えていきます。
しかし原因のところでも述べましたが、加齢で肛門括約筋の筋力が弱ること以外にも自然分娩を経験した女性も便失禁を引き起こしやすいのです。
加齢・病気・出産を経験しなくとも、普通に生活している誰にでも便失禁の患者になる可能性はあるのです。
便失禁は病気です。早めの治療をオススメします
便失禁に気づいたら受診する診療科は?
まずどこを受診したら良いのかがわからないということが多いかと思います。ここがわからずに放置し、便失禁が悪化する恐れもあります。
消化器内科・肛門科が主な診療科になりますが、かかりつけ医があればそこで相談してみるのも手段としては良いものです。まずは行動を起こさなければ治療は始まりません。
普段の生活の中でもできること
市販の「尿漏れパッド」の中には便失禁にも使用できるものがあります。治療中や不意に起こる場合には使えるものだということを覚えておくと良いですね。
通勤電車ような人混みですぐには対応できない!というところで活躍します。
適度に運動するのも筋力の衰えを予防する効果があります。また下痢や便秘をしやすい人は、腸内環境を崩しにくい食事を心がけることも大切です。
これは医療機関での食事指導にもあることで、食物繊維を含むものや乳酸菌を摂取するようにしましょう。何よりも、排便の習慣をつけるように生活リズムを見直すことも重要です。
腸内環境を整えるための食事についてはこちらも参考にして下さい。
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骨盤底筋体操
生活の中に取り入れたい骨盤底筋体操は、肛門括約筋を強化する効果があります。加齢などで弱ってきた肛門括約筋は鍛えることで補強できるのです。やり方は意外と簡単なのですぐにでも始められます。
肛門や尿道などを「締める」ように意識して力を入れたり緩めたりを繰り返します。締める・緩めるを5秒ずつ続けて10セットを毎日繰り返します。時間がないときには締める・緩めるを瞬間的に繰り返して行うことも効果的です。
内服薬を使用する
下痢や軟便・便秘を繰り返す場合や過敏性腸症候群では整腸剤や便の固さを調整する薬が処方されます。また、肛門括約筋に直接効果がある薬を処方されることもあるようです。
その他の過敏性腸症候群の治療方法についてはこちらも参考にして下さい。
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バイオフィードバック療法
理学療法の一つに筋電図などを使ったバイオフィードバック療法があります。正しく肛門括約筋を使って排便する方法をトレーニングするというものです。
初めは医療機関で装置を使って覚えるのですが、最終的にはポータブル機器を自宅で使用するという療法です。
外科的手術
最新治療として「仙骨神経刺激療法」という電気刺激装置をお尻に植え込んで排便コントロールをするというものがあります。
複数の原因が存在していたり重度の場合には必要かもしれません。保険適応で高額療養費制度の対象になっているので自己負担限度額で手術を受けられます。
ただし心臓ペースメーカー同様メンテナンスが必要になります。
慢性の便秘で肛門が硬くなり便が出しにくくなる閉塞性(閉鎖性)排便障害の場合は肛門を広げる手術を施します。
他にも太ももから肛門周辺に筋肉移植する「有茎薄筋移植術」や損傷した部分を縮める「肛門括約筋形成術」もあります。
人工肛門の造設
直腸癌やその他の直腸疾患の外科手術を行った場合に、肛門を温存できず人工肛門を造設する場合もあります。また、重度の便失禁の場合にも人工肛門を造設することがあります。
人工肛門では特に臭いが心配だという声が聞かれますが、パウチの開口部の拭き取りやパウチ自体の取り扱いに注意することが大切です。
パウチから便が漏れてしまったり、臭いの強いものを食べ過ぎたりしなければQOLを保つことが可能です。
高齢者の便秘対策
介護を受けている高齢者に多いのが便秘が原因の便失禁。排便が難しくなって肛門付近まで便が溜まっているにもかかわらず排出できないというものです。
下剤を使用する場合もありますが硬い便が取り残されるということが往々にしてあり、そのような場合には固まって溜まっている便を摘便で取り出します。
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