尿素窒素が低い病気に要注意!【原因や改善法も詳しく紹介】
<監修医師 サリー>
血液検査や健康診断の中にBUN(尿素窒素)という項目がありますね。
“尿素”とつくため、腎臓や膀胱に関する検査と予想することはできますが、実はわかるのは腎臓だけではありません。
色々な病気を見つける手掛かりになります。今回は尿素窒素の低値が何を示すのかを見ていきましょう。
気になる所から確認してみよう
尿素窒素とは?
尿素窒素(BUN=「Bun Urea Nitrogen」)とは血液中に含まれている成分で、タンパク質を分解した後に残る最終老廃物です。
これは人体にとっては不要な物質のため、血液の流れに乗って腎臓に運ばれた後、腎臓内で濾過され一部は血液中に戻りながらも、ほとんどが尿中に排泄されます。
このため腎機能に問題があると濾過がうまくいかなくなり血液中の老廃物が上手に排出されなくなります。
尿素窒素はクレアチニン値と同じく、主に腎機能の判定に使用されています。
しかし尿素窒素からわかることは、何も腎臓の機能だけではありません。
タンパク質は、その分解過程において毒性の高いアンモニアを作り出します。アンモニアは生成されてからすぐに肝臓に運ばれアンモニア→尿素窒素と分解されます。
もしこの工程に異常があればアンモニアから尿素窒素への分解が滞ってしまうため、尿素窒素が低値を示し、肝機能の異常が疑われるでしょう。
また尿素窒素の異常値を示す病気には、悪性腫瘍や肝不全、体内の炎症、ホルモン異常などもあるため、それらの判定に役立っています。
尿素窒素の基準値を知ろう
成人の正常値は
✅ 尿素窒素(BUN):8.6~22.9mg/dL
になります。
ただし尿素窒素に影響を与える因子には、前述した病気以外にも、性別や年齢、脱水や体の疲労状態も関係してきます。
例えば日頃からたんぱく質を好んで食べる人や、慢性疲労により腎臓が疲れている、軽度の脱水状態などでは基準値よりわずかに高めに出る傾向があります。
逆にダイエット中や菜食主義者、妊娠中の人は低めに算出される傾向があります。
性別差では男性の方がやや高い傾向にあるようです。これは男性が肉食を好むことや、体内の筋肉量が女性より多い事が関係しているようです。
最後に年齢によるものですが、人間は加齢に伴い少なからず内臓機能は低下していきます。このため腎機能の低下によって基準値よりやや離れた値が出る傾向があります。
また、数値は夜より朝の方が高くなる傾向があることや、脱水状態では通常より血液が濃縮されているため尿素窒素は高くなることも覚えておきましょう。
注意したいのは、一度基準値から外れた値が出たからといって、すぐに病気を疑うわけではないということです。
前述したように、その人の生活習慣や食習慣、疲労や脱水の有無によっては一時的に異常値が出てしまう事もあるため、再検査や他の検査項目と合わせて判断することが大切になってきます。
尿素窒素が低い原因は3つの病気を疑って
尿素窒素が高い原因の中には、糖尿病、高血圧、腎不全、悪性腫瘍、消化管出血、脱水、発熱などがありますが、低値を示す病態にはどのようなものがあるのでしょうか。
ここでは尿素窒素が低い時に疑うべき内容を見ていきましょう。
肝障害
尿素窒素はタンパク質が分解されたときに出るアンモニアが分解されて産生されます。
肝臓に異常があると血液中のアンモニア量が増え、尿素窒素が減少します。
考えられる病気には肝硬変、肝不全、肝炎、肝臓がん、急性黄色性肝萎縮症などがあります。
肝障害が重度になると、皮膚が黄色くなる黄疸、不随運動や意識障害が出現する肝性脳症といった症状が出現してきます。
腎障害
通常であれば、腎障害は尿素窒素の高値を示しますが、病気によっては尿量が極端に減少した結果、血液が水で薄まり尿素窒素が低くなってしまう病態もあります。
考えられる病気にはネフローゼ症候群の一つである、リポイドネフローシスがあります。
これは小児に特に多いと言われる病気です。症状は突然むくみが激しくなり尿量が減少します。
その他の障害
肝臓と腎臓以外にも、尿素窒素低値を示す疾患があります。それが尿崩症、先端巨大症、水中毒などです。
ホルモンバランスの異常や精神症状が原因となり尿量が極端に増えたせいで、血液中の尿素窒素が多量に排泄されてしまいます。
また治療の一貫としてホルモン治療や利尿薬を行っている人も、一時的に尿素窒素が低くなることがあります。
病気ではないけれど、ダイエットや妊娠中にも低くなる
過度のダイエットやきつい食事制限を続けている場合にも、体内のたんぱく質が不足して尿素窒素が低くなります。
この場合は、適切な食事内容を心がける事ですぐに正常値に戻すことが可能です。
また妊娠中は胎児にタンパク質を供給するため、お母さんの尿素窒素が低くなります。
あまり重大に捉えなくても大丈夫ですが、タンパク質がやや不足しているほどの認識は持つようにしましょう。
尿素窒素の数値が低い時は5つの症状が出やすい
尿素窒素が低くなると、それに伴って障害臓器特有の症状が出現してきます。一つ前の項目に合わせて紹介していきます。
肝障害が原因の時
肝臓の機能低下が原因となって尿素窒素が低値となっている場合は、体内にアンモニアが蓄積しているため
✅ 易疲労感や倦怠感
✅ 易出血状態 ✅ 消化器障害 ✅ 意識障害や不随運動(肝性脳症) ✅ 皮膚の黄染 |
などを伴う事が多くなります。
出血しやすくなることから、歯茎からの出血や、便に血液が混じるようになる、吐血などの症状がみられることもあります。
原因には薬剤性やアルコール性、生活習慣病などが考えられます。
腎障害が原因の時
リポイドネフローシスは小児に多いネフローゼです。症状としては、急に出現するむくみ、体重増加、尿量低下が起こります。
しかし腎機能にはほとんど影響がなく、治療を開始すれば早期に改善しますが、再発しやすいのが難点です。
まれに成人でも似たような症状を引き起こす膜性腎症というネフローゼがあります。こちらの場合は治療の効果が薄く腎機能低下を起こすこともあります。
その他の障害が原因の時
この場合は、尿量を増やしている原因をやめれば改善することがほとんどです。
内服やホルモン剤が原因となっているのであれば、量を調整することで改善されます。不安ならば一度医師や薬剤師に相談してみましょう。
水中毒が原因となっている場合は、同時に体内のミネラルバランスも乱れている事が多く、めまいやふらつき、手足が震える、原因不明の嘔気や嘔吐、意識障害などが起こることがあります。
注意したいのが、特に原因となる物が見つからないのに尿量が増えているパターンです。尿は脳の下垂体によって調整されています。
もし下垂体に腫瘍ができてしまうと、ホルモンバランスが乱れ尿崩症を引き起こすことがあります。
下垂体腫瘍は良性腫瘍で初期はほとんど症状がありませんが、まれに肥大化して月経不順や易疲労、眼神経の圧迫による視力障害、男性ならばインポテンツや性欲低下の原因になることもあります。
上記以外の要因の時
ダイエットや過度の食事制限を行っている場合は、低タンパク質状態が原因となって尿素窒素が減少します。
この場合ですと、栄養失調状態にあたるため、立ちくらみや易疲労感、倦怠感、肌荒れ、貧血、脱毛などの症状が現れます。
妊娠中に尿素窒素が低くなるって本当?
妊娠中は尿素窒素の検査値が通常時より低くなる傾向がある、と前述しました。とはいっても、これは妊婦さんであれば誰しも起こり得る生理反応のため異常な事ではありません。
妊娠中に尿素窒素が下がる原因については、妊娠に伴う妊婦の体の変化と、胎児への栄養供給が大きく関係しています。
妊娠中の体の変化には
✅ 循環血液量の増加
✅ 心拍数、心拍出量の増加
✅ 尿量増加、頻尿
などが挙げられます。
尿素窒素は体内で作られた後、尿になって排出されます。
妊婦さんでは血液量が増加することで尿量も増加しやすい状態にあるため、尿素窒素が排出されやすく、血液量増える事で血液中の尿素窒素の割合が低下する傾向にあるのです。
また、日々大きくなっていく胎児の体を作るには、母体のタンパク質が必要になってきます。この場合のタンパク質は代謝で消費されているわけではないため、アンモニアや尿素窒素は産生されません。
これらの理由から、母体側ではタンパク質の不足状態になりやすく、さらに尿素窒素は排泄されやすくなり尿素窒素が低くなりやすいのです。
出産後、数週間して自然と正常値に近づいていきます。
尿素窒素の数値が低い時の改善方法はコレ
尿素窒素の値が低いと指摘を受けた場合は、上記の症状がないか確認してください。一つでも思い当たる症状があれば、まずは精密検査を受ける事をお勧めします。
また、病気治療の一貫で利尿剤やホルモン剤を使用している人は、尿素窒素の値だけで薬の内服や注射を止めてはいけません。
医師や薬剤師はそれらの検査項目を知ったうえで薬を処方しているため、まずは相談するようにしましょう。
ダイエットや偏った食事、慢性疲労、ストレス状態にある人は低タンパク質やストレス、疲労が原因となって尿素窒素低値を起こしている事があります。以下の点に気を付けてみましょう。
良質なタンパク質を毎食取り入れる
魚や鶏肉、大豆などを意識的に食べるように心がけましょう。実は肉製品には私達が思うほどタンパク質は含まれていません。
以下は100g中に含まれるたんぱく質量です。
✅ 鮭の切り身20g
✅ 絹ごし豆腐4g、木綿豆腐20g
✅ 鶏肉25g、豚肉15g、牛肉17g
成人ならば50~60g/日必要になってきます。運動強度が高い人はさらに必要です。
生活習慣の見直し
尿素窒素が異常値を示す原因の中には、運動不足や睡眠不足、ストレスの蓄積などが原因となって自律神経のバランスが崩れたために、一時的に異常値を示すことがあります。
また偏った食生活なども栄養バランスが乱れるため腎臓や肝臓に思わしくありません。一度生活習慣を見直してみる事も必要になってきます。
バランスの良い食事をとり、良質な睡眠、運動習慣を心がけましょう。
尿素窒素の異常値は、生活習慣病からダイエットや偏った食事、薬物治療による影響など原因は様々です。または怖い病気が隠れていることもあります。
大事な事は、異常値を見つけたら放置せず原因を突き止める事です。
そのためにも、定期的に健康診断や脳ドック、血液検査を受けて健康の保持増進に努めるようにしましょう。
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