ミトコンドリア脳筋症の10の症状【予後や遺伝の強さも解説】
<監修医師 豊田早苗>
ミトコンドリア脳筋症という病名をご存知でしょうか?
その名の通り脳神経や筋肉を中心に症状が出る病気です。まだ世界的にも患者数が少なく、あまり多くのことがわかっていない、遺伝性の難病です。
今回は、そんなミトコンドリア脳筋症の症状、予後、そして遺伝性について詳しく解説していきます。
ミトコンドリア脳筋症とは
ミトコンドリア脳筋症とはどのような病気なのでしょうか。そのためにはまず、ミトコンドリアについてご説明します。
ミトコンドリアとは
ミトコンドリアとは、体内の細胞、一つ一つに入っている「細胞内小器官」の一つです。
体の細胞の中には、その機能を維持するための器官が色々ありますが、ミトコンドリアは体の中で使われるエネルギー物質、アデノシン三リン酸(ATP)を作ります。
私たちが摂取した食べ物は、グリコーゲンや中性脂肪の形で細胞の中に貯蔵されます。これがガソリンです。
このガソリンを使って、エネルギー物質を作りだしているミトコンドリアは、いわば細胞のエンジンのようなものです。
その他にも、ミトコンドリアには活性酸素産生や、カルシウムイオンの貯蔵、感染防御などの役割も知られており、細胞内で非常に重要な働きを持っています。
また、ミトコンドリアの特徴は、ミトコンドリア自身がDNA(遺伝子)を持っていて、自分で複製をすることです。
そのため、ミトコンドリア脳筋症は体細胞遺伝をします(これについては後ほど詳しく説明します)。
ミトコンドリアに異常が起こるミトコンドリア脳筋症
細胞のエンジンであるミトコンドリアに異常が現れると、エネルギー物質が上手く作られず、細胞が上手く働かなくなってしまいます。
そのために、運動異常や機能異常が症状として現れます。
ミトコンドリア脳筋症とは、ミトコンドリアの遺伝子の異常により、主に脳神経や筋細胞に症状のみられる病気を指します。
ミトコンドリア脳筋症の症状
次に、ミトコンドリア脳筋症の症状をご紹介します。ミトコンドリア脳筋症も何種類かありますがその中の4つをご紹介します。
カーンズ・セイヤー症候群
慢性進行性外眼筋麻痺(まんせいしんこうせいがいがんきんまひ)、またはKSSとも呼ばれます。
この病気は、眼球運動麻痺、心伝導障害(心臓の刺激伝導系が障害を受ける)、そして網膜色素変性症(徐々に視野が狭くなる)などの症状がみられます。
特に子供に多い病気です。すべての症状が同時に現れるわけではありません。
リー症候群
リー脳症とも呼ばれます。乳幼児から小児に多く見られるミトコンドリア脳筋症です。精神発達の遅れ、痙攣、嚥下障害が引き起こされ、呼吸不全まで至ることもあります。
脳卒中様発作を伴うミトコンドリア脳筋症
MELAS(メラス)とも呼ばれます。20歳以前の若年の方によく発症します。脳卒中の様な症状と高乳酸血症がみられるほか、低身長や筋力低下なども特徴です。
ミオクローヌスを伴うミトコンドリア脳筋症
福原病やMERRFとも呼ばれます。この病気は、年齢に関係なく幅広く発症し、徐々に病状が進行していきます。
ミオクローヌスというのは不随意運動の一種で、自分の意思とは関係なく体が動いてしまう症状です。その他にも、小脳症状、筋症状、てんかんなどが見られます。
小脳梗塞についてはこちらを見て参考にして下さい。
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ミトコンドリア脳筋症の症状
ミトコンドリア脳筋症にも色々と種類がありますが、その症状は脳神経や体の筋肉に集中しています。
脳神経の症状としては、痙攣、失調、知能低下、偏頭痛、運動障害、神経障害が見られます。
筋肉の症状としては、筋力の低下や疲れやすいといった症状が出る他にも、目の筋肉が麻痺してしまうことで視力障害が起こる方もいます。
症状の現れる場所や強さは人それぞれ違い、脳神経と筋肉以外に症状が出ることもあります。
例えば、
✅ 心臓・・・伝道障害、心筋症、WPW 症候群、肺高血圧症
✅ 目・・・視神経萎縮、外眼筋麻痺、網膜色素変性
✅ 肝臓・・・肝機能障害、肝不全
✅ 腎臓・・・ファンコニー症候群、尿細管機能障害、糸球体病変、ミオグロビン尿
✅ 膵臓・・・糖尿病、外分泌不全
✅ 血液・・・鉄芽球性貧血、汎血球減少症
✅ 耳・・・難聴
✅ 消化器系・・・下痢、便秘
✅ 皮膚・・・発汗低下、多毛
✅ 内分泌腺・・・低身長、低カルシウム血症
など、症状は実に多様です。
また、症状が複数現れる人もいれば、1つしか現れない人もいます。特に症状が少ない人の場合は、診断に時間がかかってしまうこともあります。
肝機能の低下についてくわしくはこちらを見て参考にして下さい。
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ミトコンドリア脳筋症の予後
ミトコンドリア脳筋症は、ミトコンドリアの遺伝子に何らかの異常があるために引き起こされます。一種の遺伝病であるため、予防することができません。
また、まだ有効な治療法が確立されていませんし、患者さんの平均寿命も確定していません。
ミトコンドリア脳筋症は、血液中の乳酸値や、脳のCTやMRI、遺伝子検査そして筋生検などの検査結果より診断されます。
ミトコンドリア脳筋症と診断されたら、対症療法による病状の改善が主に行われます。
その他に、原因療法として、ミトコンドリアの働きを助けるビタミン類(ナイアシン、B1、B2、リポ酸)を補給したり、コエンザイムQ10(ノイキノン)を処方することもあります。
筋力低下がみられる場合は、リハビリを行い、それ以上筋力低下が進行しないよう気をつけなくてはいけません。
難病情報センターによると、欧米では10万人に9〜15人の人がミトコンドリア脳筋症と診断されています。日本ではまだまとまった統計が出されていませんが、10万人に5.7人と言われています。
ただし、ミトコンドリア脳筋症は多種多様な症状を引き起こすため、診断が難しく、軽い症状の人を含めるともっと患者数がいる可能性があります。
ミトコンドリア脳筋症は、症例ごとに差が大きいので、1つの臓器の症状の程度だけではなく、他の臓器に見られる症状も大きく影響します。
そのため、一般的に予後は、現在の様子とその後の経過を見ながら判定をしていきます。
ミトコンドリア脳筋症の遺伝性
最後に、ミトコンドリア脳筋症の遺伝性について解説します。
ミトコンドリア脳筋症は、ミトコンドリアのDNAに異常があるために引き起こされる病気です。そのため、遺伝性ではあるのですが、通常の遺伝とは少し異なる部分があります。
それは、「母系遺伝」であるということです。
私たちは、母親の胎内で、卵子と精子が合わさって受精卵となり、そこから細胞分裂して体が作られます。ところが、精子の細胞にあるミトコンドリアは、受精時に壊されてしまい、子供には受け継がれません。
代わりに、卵子の中にある、母親の細胞由来のミトコンドリアが私たちのミトコンドリアとなります。
そのため、もしミトコンドリアのDNAに異常がある場合は、母親から子供へと受け継がれます。父親からミトコンドリアDNAを受け継ぐことはありません。
ただし、異常を示すミトコンドリアが多くないとミトコンドリア脳筋症を発症しないので、母親がミトコンドリア脳症だからと言って、子供も必ず同じ病気にかかるわけではありません。
逆も然りで、母親が病気でなくても子供が発症する場合もあります。
いずれにせよ、もし母系の親戚にミトコンドリア脳筋症を発症された方がいたら、注意をするに越したことはありません。
特に、ご家族に遺伝子診断によりミトコンドリア脳筋症と診断された方がいる場合には、お子さんを授かった時に出生前診断ができることもあります。もし不安な場合は担当医に相談してみてください。
その他、遺伝の可能性のある病気についてはこちらのようなものもあります。参考にして下さい。
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まとめ
今回は、ミトコンドリア脳筋症についてお伝えしましたがいかがでしたか?
ミトコンドリア脳筋症は、はっきりとした患者数もまだわからない、難病です。
ですが、早期発見ができれば、後遺症は軽くなることが多いので、特に小さい子供の親御さんは、低年齢で発症しやすいカーンズ・セイヤー症候群やリー症候群の症状には注意をしてください。
また、ミトコンドリア脳筋症は特定疾患治療研究事業の対象疾患(特定疾患)に指定されています。医療費助成を受けることができますので、最寄りの保健所に相談してみてください。
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