メッケル憩室炎の5つの症状!【手術方法を分かりやすく解説】
<監修医師 吉野 聖奈>
メッケル憩室は主に小児科や小児外科が専門とする腸管の奇形です。何の症状もなく一生を過ごすこともあればこの憩室が原因で健康上の問題が起こることもあります。
このメッケル憩室とは小腸の中間部にできるその袋状の突起物のことを指します。先天性の疾患で小児が主に炎症を起こしやすく、大人になってから発症することは少ないものです。
それ自体は無症状のメッケル憩室が炎症を起こした状態をメッケル憩室炎と呼びます。その症状や治療法などについて解説します。
メッケル憩室炎とは?
腸管奇形であるメッケル憩室を持っている乳幼児は約3%と言われます。胃粘膜や腸・膀胱や胆のうなどの壁の一部が袋状に飛び出た突起物を憩室と呼びますが、その中に膵臓などの組織が入っていることもあります。
小腸から大腸への移行部分である回盲弁に近い口側に発生し、男児にできる割合が女児の2倍多いと言われます。
無症状のまま成人することの方が多い疾患ですが、炎症を起こし憩室炎になると消化性潰瘍や穿孔が発生して大量の下血をしたり腸重積やイレウスに移行して嘔吐やショック症状を起こすことがあります。
激しい腹痛や発熱を伴い虫垂炎のような症状も見られます。
盲腸についてはこちらを見て参考にして下さい。
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メッケル憩室炎の5つの症状
メッケル憩室炎では重篤な症状を伴うことが多くあります。ただ、無症状のメッケル憩室の方が症状を起こす数よりも多いというのも特徴です。
消化器症状のため医療機関を受診するならば子供なら小児科や小児外科、成人であれば消化器科や消化器外科が良いでしょう。
消化性潰瘍
幼児期に腹痛などの前触れもなく血液がそのまま排泄されるような大量下血をすることがあります。憩室内部は50%以上の確率で胃や膵臓の組織を有しています。
胃の組織を持つメッケル憩室で5歳未満の幼児に多くみられる症状では、憩室内に分泌される胃酸により回腸などに消化性潰瘍ができて出血が生じます。
痛みのない直腸出血もありますが、この場合は鮮赤色の便や血液と便が混ざった血便や分解された血液が混在する黒い下痢が出ることもあります。下血が続くことで貧血を発症することもあります。
腸閉塞
腸閉塞はどの年齢にも発症しますが、年長児と成人に多く見られる症状です。原因は腸重積が最も可能性が高いものとなります。
小児であれば癒着や腸捻転などの要因が多く、成人の場合はカルチノイドなどの腫瘍が要因となることもあります。
腸が完全に塞がれているか深刻通過障害を来すものでメッケル憩室につながる索状物(血管の名残で繊維質の構造物)に腸が入り込んで発生するとされています。
症状は炎症を起こすことで発現する痙攣性の激しい腹痛・悪心・嘔吐が見られ、急性の場合には発熱し腹部左側を押すと痛むこともあります。
起こる症状を見ても痛い部位を除けば虫垂炎と見分けることがかなり困難になります。また、腸閉塞では急性腹症によるショック症状を起こすこともあるため早期の受診が必要です。
腸閉塞の治療方法についてはこちらを見て参考にして下さい。
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腸重積
腸重積とは回盲部が大腸に入り込んで重なってしまうことで起こり、放置すると腸そのものが24時間程度で壊死してしまうことがあります。
この腸重積の先端がメッケル憩室であり、洋服の袖を乱暴に脱いだ時のような重なり方をします。重なった部位は少しずつ腸を巻き込みながら移動するため、痛む部位も移動することがあります。
腸管が血行不良を起こすため嘔吐や赤ワインのような色の粘血便が出ます。逆蠕動に伴って間欠的な激しい腹痛が起きるため言葉で訴えられない小児では間欠啼泣をすることがあります。
腸閉塞の原因にもなるうえ急性腹症でのショック症状も起きます。
憩室穿孔
頻度は少なくなりますがメッケル憩室に穴が開く憩室穿孔も起こります。メッケル憩室に胃粘膜が存在することが大きくかかわっていて、潰瘍穿孔により腸の蠕動運動が弱くなり下腹部痛や発熱が見られます。
レンメル症候群
憩室はほとんどが十二指腸にできるのですが、このメッケル憩室は小腸にできるものです。このメッケル憩室の関連症候群としてレンメル症候群というものがあります。
症状は憩室が胆管を圧迫して胆石症のような状態になります。そのため閉塞性の黄疸を起こします。
黄疸についてはこちらを見て参考にして下さい。
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メッケル憩室炎の原因
重症化することもあるメッケル憩室炎の原因を掘り下げてみてみましょう。
メッケル憩室がある生き物
ヒトには初めからメッケル憩室があるわけではありません。しかし、そのメッケル憩室を保持している生き物が他にもいます。それはヒトが卵をいただいている鶏なのです。
卵黄は孵化する前のひな鳥の栄養ですが、それを蓄えていた袋の名残がメッケル憩室なのです。しかし、鶏でも憩室が化膿すれば死んでしまうことがあります。
「卵」というものがメッケル憩室炎を解明するひとつのキーワードになるかもしれません。
お母さんのお腹の中から?
ヒトは卵ではなく胎児をお腹に宿しますが、お母さんのお腹の中には胎児に栄養を送る卵黄管という管がごく短期間だけ発生します。臍帯(へその緒)と小腸の間にあり卵黄のう管・臍腸管とも呼ばれます。
通常は7週目までに消滅するのですがこの結合部が収縮しなければメッケル憩室になるのです。お母さんと子供をつなぐ命綱の残骸がメッケル憩室となることは判っていますが、なぜそうなるのかという原因は不明なのです。
突然変異?
異所性胃粘膜とは胃以外の臓器に胃粘膜が増殖したりするもので、胃液を分泌する主細胞や胃底腺粘膜から成り立っています。この異所性胃粘膜の先天的なものの代表としてメッケル憩室が挙げられます。
なぜ異所性胃粘膜が原因なのかというと、メッケル憩室は腸の一部で胃粘液を持たないため胃酸から腸そのものを保護することができないからです。
普段は無症状ですがそれ自体が胃酸を分泌するために腸の粘膜に潰瘍や消化管穿孔を起こすため、突然の出血や大量の下血が起こるのです。
小腸にあるメッケル憩室の中に胃や膵臓ができるわけではなく、組織の突然変異で胃粘膜や膵臓組織が発生するのです。
メッケル憩室炎の治療方法
メッケル憩室炎の不思議なメカニズムを解説してきましたが、原因不明の病気に対する診断方法や治療方法はあるのかという疑問がわきます。
メッケル憩室炎の診断
下血・腸閉塞・腸重積などそれぞれの鑑別診断が主流ですが、外科手術目的で術前診断をしても鑑別が困難なのが実情です。
最有力の検査方法
最も有効な検査方法は胃粘膜の集積を利用して行う胃粘膜シンチ(メッケルシンチ)です。
陽性診断率は9割ほどで、1回の検査で診断できなくても複数回繰り返すことで確定診断を下すことができます。
放射性同位元素のテクネチウムを使用する核医学検査で、テクネチウムを静脈注射して憩室内の異所性胃粘膜組織に集まることを利用してその放射線をとらえて画像にするものです。
異所性胃粘膜は幼児期に出血を生じるため胃粘膜シンチの適応要件が発見しやすい点もメリットとして挙げられますが、それが偽陽性の場合もあります。
偽陽性の原因は周りの腸などの炎症や血管異常・異所性胃粘膜が小さすぎるなどが考えられます。
その他の検査方法
携行造影剤を用いたCT検査やカプセル内視鏡・小腸内視鏡検査などもあります。
腸閉塞による嘔吐などが顕著な場合は臥位や立位でのX線透視検査を行いますが、いずれの検査も確定診断を下すには決め手に欠くものです。
発見の経緯
確定診断が難しいメッケル憩室炎は偶然発見されることが多いのです。虫垂炎や他の開腹手術など、小児に限らず成人になってからの手術でもお腹を切って偶然メッケル憩室を発見されて告げられる以外には知る由もないものです。
治療方法
症状が何もない無症候性のメッケル憩室は治療の必要はありません。一方、メッケル憩室炎と合併症を起こしている場合は手術で切除するしか改善は望めません。治療方法は両極端なのが現状です。
手術方法
まずは全身状態を良くしてからの切除手術です。状態によって憩室のみを切除する場合と周りの腸管も切除する場合があります。
全身麻酔下で行うメッケル憩室切除術は腹腔鏡手術が主流です。身体へのダメージが最小限にとどめられ、患者のQOLの低下もほとんどありません。
カメラが付属した細く柔軟性のあるチューブ状の内視鏡を、お腹を数センチ切開して挿入します。切開部から腹腔内の術野をカメラで確認しながら鉗子などを使ってメッケル憩室炎を起こしている箇所を切除します。
わずかな切開部からでは取り除けないほど状態が悪い場合や再発の場合は開腹手術が適応されます。
手術では通常、小腸などを傷つけず憩室のみが切除されます。腸管組織に炎症や感染が発生している場合には小腸の一部を切り取ります。そして残された健康な組織同士を縫合する吻合(ふんごう)処置をします。
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