上行結腸憩室炎の意外な原因【怖い症状や治療法を知っておこう】
<監修医師 春田 萌>
上行結腸憩室炎とは、腸の上行結腸部分に憩室ができてしまい、炎症を起こしてしまう病気です。先天的な原因や後天的な原因がありますが、ほとんどが後天的な原因です。
症状が悪化すると命に関わる状態になったり、合併症を引き起こす危険性があります。
今回は上行結腸憩室炎の原因や症状、治療法について詳しく解説します。原因や症状をしっかりと把握する事で予防を心掛けましょう。
気になる所から確認してみよう
そもそも憩室って何?
憩室とは、腸管の内部の内壁の一部が外側に向かって袋状に突起したものをいいます。内視鏡で見るとくぼみのようになっていて、圧力のかかる場所にできやすいものです。
特に大腸に多くできやすく、炎症を起こして激痛や発熱等の症状が現れた場合には治療が必要になります。
当初は無症状である事が多いのですが、腸の一部に便秘等により停滞便があり、それが憩室に詰まってしまう事で、炎症を起こし、上行結腸憩室炎の症状が現れます。
憩室は先天的に生まれつき憩室がある方もいますが、多くは後天的な原因から憩室ができます。
後程詳しく解説いたしますが、後天的な原因としては食生活の欧米化や、食物繊維の少ない食事、加齢等があげられます。
憩室が1つだけでなく、複数ある場合に憩室症といい、炎症が起きると憩室炎といいます。
多くの場合は後天的な原因であり、日常生活の改善から予防をする事ができます。炎症がひどくなってからだと手術が必要になる場合もあります。
このような状態を招かない為にも日頃の生活習慣を見直し、定期検査等もきちんと受けましょう。
憩室炎についてはこちらも参考にして下さい。
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上行結腸憩室炎の意外な原因
上行結腸憩室炎は難しい病名ですが、実はすごく身近な病気なのです。
誰しもなる可能性があり、近年の患者数は増加してきています。原因をしっかりと把握する事で、上行結腸憩室炎を予防しましょう。
大腸内圧の上昇
一番の原因として、大腸内圧の上昇があげられます。
大腸内圧の上昇には、食生活の欧米化によりお肉の多い食事を摂っている事や、野菜の摂取不足による食物繊維の摂取量の減少等が大きく関与しています。
これらの事から便秘になりやすかったり、腸内にガスが多く発生しやすくなる腸のれん縮により、大腸内圧の上昇を引き起こし、粘膜が外側に飛び出してしまうのです。
普段の食生活の改善で防げる原因ですので、バランスの良い食生活を心掛けていきましょう。
腹膜炎
最も注意しなければならない事として憩室炎が悪化する事によって腹膜炎を発症してしまう事です。
憩室炎により、憩室の壁が破裂し、便の一部が腹膜内に流れます。便には大量の細菌や雑菌が含まれていて、このような菌が腹膜内へと流れ込み、他臓器にも悪影響を与えます。
腹膜炎は緊急手術が必要になり、命にも関わる重大な病気です。腹膜炎や他の病気を引き起こさないように十分な注意が必要です。
食事
食生活の欧米化により、日本では以前よりも憩室炎が増加しています。昔の日本人は野菜や魚中心の食生活で、食物繊維も十分に摂取していました。
ですが、近年の日本では肉食中心、野菜不足、そして食物繊維も不足している事から憩室ができやすくなってしまうのです。
まずは食生活の見直しが必要です。水分もしっかりと摂る事で便秘を予防しましょう。ただ体が冷えないように注意しながら、水分を摂取しましょう。
便秘解消に効果的な手段についてはこちらを参考にして下さい。
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ストレス
上行結腸憩室炎には便秘が非常に関与していますが、その便秘の原因としてストレスも関係しています。大きなストレスや、精神的緊張が続いている状態は、大腸の機能を低下させます。
それにより、蠕動運動(ぜんどううんどう)を阻害し、便秘となってしまいます。
また腸は自律神経とも大きく関係性があり、ストレスで乱れる事もあります。腸の動きに関係しているのは副交感神経です。
副交感神経は睡眠時やリラックスしている時に働き、血管を拡張させ血行を良くしてくれます。そして副交感神経が働く事で腸も元気に動いて排便がスムーズになります。
ストレスを溜めないようにするとともにリラックスする事を心掛けていきましょう。
便秘
便秘が大きく関係しているこの病気ですが、生活リズムの乱れから便秘になってしまう場合もあります。生活リズムが乱れている事により、排便を習慣づける事がなかなか難しいのです。
また便意を我慢してしまう方もいますが、体にはとても悪いです。我慢をせずにきちんと排便のコントロールを習慣づけましょう。
デスクワーク等で運動不足の方も便秘になりやすいです。
腹筋は肛門に圧力をかけて排便する為には重要な筋肉ですので、鍛えるといいでしょう。またお腹をゆっくりとマッサージして排便を促しましょう。
手軽にどこでもできる方法としては、腹式呼吸があります。鼻からゆっくりと息を吸いながらお腹を膨らませて、口から息を吐きながらお腹をへこませます。
腹式呼吸で排便しやすくなり、便意も起きやすくなります。
腹式呼吸についてくわしくはこちらを参考にして下さい。
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加齢・高齢化
加齢・高齢化も上行結腸憩室炎には関係があります。特に40歳以上になると憩室が多く見られるようになるのです。
加齢により腸管壁が弱くなってしまいますので、粘膜が外側に飛び出しやすくなってしまいます。加齢によっても憩室炎を起こしやすくなりますので、普段の食生活や生活習慣から心掛けていきましょう。
上行結腸憩室炎の症状
続いて上行結腸憩室炎の症状についてです。たくさんの症状がありますが中には別の病気と間違われやすい症状もあります。
また症状が悪化すると命に関わる危険性がありますので、注意が必要です。
無症状
多くは無症状のまま経過しますが、憩室があるとわかっている場合には定期検査は必要です。
そして、炎症が起きて、様々な症状が出ないように普段から気を付ける事も大事です。少しでも異常を感じた場合にはすぐに病院を受診してください。
腹痛・便秘・下痢・軟便・ストレス
初期症状としては腹痛が続き、また便秘と下痢の繰り返し等の便通異常が現れ、過敏性腸症候群にとてもよく似ています。
ただ過敏性腸症候群と上行結腸憩室炎は全く違い、上行結腸憩室炎の場合には悪化すると下血やショック症状に陥る事もあります。
過敏性腸症候群の便通異常にはストレスが大きく関与しています。
過敏性腸症候群の場合には、血液検査やCT検査等で異常が見られないのに、便秘や下痢を繰り返しますので、混同しないように注意しましょう。
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腹部膨満感
便秘が続く事により、お腹の張り、腹部膨満感を感じるようになります。腹部膨満感も過敏性腸症候群の症状と似ていますので、注意が必要です。
腹部膨満感や便秘が続く事で、内視鏡検査の器具を挿入する事が困難になる事もあります。
腹痛
上行結腸の場合には右腹部に腹痛が起きます。炎症が軽い時には痛みも軽いですが、炎症がひどくなるにつれて痛みも強くなっていきます。
憩室炎がひどくなると強い腹痛が起きるようになり、やがて激痛へと移行します。他の合併症による腹痛も考えられる為、すぐに病院を受診してください。
血便
症状が進むと血便が現れ、赤黒い便が出るようになります。
発熱・悪寒
症状がひどくなるにつれて、発熱・悪寒の症状が現れます。
出血・下血・貧血
憩室内の動脈が破れて大量出血を引き起こす事もあります。それに伴い、貧血症状も起きますので、すぐに病院を受診してください。
膿・穿孔・腹膜炎・ショック
症状がどんどんひどくなり、膿が溜まる程にまで悪化してしまうと、大腸に穴があいて腹膜炎を引き起こしたり、ショック状態になる危険性があります。
膿が溜まっていたり、出血がひどい場合には、手術が必要です。
おなら
あまりにもおならが臭い場合には、上行結腸憩室炎の症状の可能性があります。急におならの臭いが臭くなったり、回数が増えた場合には要注意です。
盲腸
右腹部が痛み、盲腸、急性虫垂炎の症状と似ている為、間違われる事もあります。特に高齢者や小児の場合には症状を伝えにくい事もあります。
憩室炎の場合には血液検査で白血球の増加、またCT検査では憩室の周りの脂肪に炎症がみられます。きちんと検査をしてもらいましょう。
合併症で疾患を引き起こす可能性
憩室自体はあっても、無症状の場合にはそのままにしておいて構わない場合もあります。
ただ憩室炎となり、炎症がひどくなったり、症状が悪化する場合には治療が必要です。また非常に悪化してしまった場合には合併症を引き起こす危険性もあるのです。
憩室出血
憩室炎の症状が悪化し、便が憩室に詰まって血管を傷つけた場合に、憩室から突然大量出血を起こします。
特に心疾患や脳血管疾患をお持ちで、血液をサラサラにする薬を服用している方は憩室出血を起こしやすくなりますので、注意が必要です。大量出血を起こしますので、ショック状態に陥ったり、危険な状態になりかねません。
腹膜炎
憩室炎が悪化し、腹膜炎を引き起こす危険性もあります。内臓は雑菌等の影響から腹膜で守られています。
憩室炎は憩室壁が薄く、炎症が起きると破れやすくなります。憩室壁が破裂する事で、便の一部が腹膜内に流れ、腹膜内が雑菌や細菌に感染してしまいます。
腹膜炎は命に関わる病気ですし、腹膜炎だけでなく、他臓器への悪影響も考えられますので、注意が必要です。
腸閉塞
憩室炎を繰り返す事により、腸の壁が厚くなってしまい狭窄が生じるようになります。憩室炎は元々便秘との関係性が大きいですので、さらに便秘が悪化する事も考えられます。
そして、便が通りにくい状態になり、腸閉塞を引き起こします。腸閉塞も命に関わる危険性のある病気ですので、注意が必要です。
腸閉塞の治療方法についてはこちらを参考にして下さい。
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ろう孔形成
憩室炎により、腸に穴が空き、さらに近くにある臓器にまで穴が空いてしまい、穴と穴が繋がる状態をいいます。
万が一膀胱と腸が繋がってしまった場合には、尿に便が混じるという大変な事になりかねません。
門脈血栓症
腸からの血液を肝臓に運ぶ役割を持つ門脈。憩室炎により、この門脈が血栓でふさがれたり、狭くなってしまう病気を引き起こします。
上行結腸憩室炎の治療法
最後に上行結腸憩室炎の治療法についてです。
上行結腸憩室炎は軽度の場合には自宅療養が可能ですが、ひどくなると入院や手術が必要になります。悪化させないように十分に注意しましょう。
抗生物質
軽度の憩室炎の場合には、抗生物質の内服薬が処方されます。症状が進行すると内服薬だけでは対処できなくなりますので、早めに病院を受診してください。
食事制限
憩室炎が軽症な場合、抗生物質を服用しながら自宅療養で過ごします。ただ腸に負担をかけないような消化の良い食事をしなければなりません。
お肉や油もの、脂肪分の多い食べ物は避けましょう。
また食物繊維の多いものは便秘の予防にはなるのですが、憩室炎で炎症が起きている場合には、食物繊維の少ない流動食のようなものが良いので、食事には気を付けましょう。
腸内細菌バランスを整える為にヨーグルト等の乳酸菌を含む食品は抗炎症作用もあり、症状を和らげる事もできます。
普段からバランスの良い食生活を心掛け、腸内環境を整えましょう。
入院
憩室炎の炎症がひどい場合や症状がひどい場合には、入院での治療を行います。
一週間程度、抗生物質の点滴をしながら、食事は絶食にします。絶食にする事で腸を休めて早く炎症を鎮めます。
炎症が軽快してきたら、消化の良いものを少しずつ食べるようにします。腸に負担のかかる食事は憩室炎を再発させてしまう為、食事には十分な注意が必要です。
また退院してからもしばらくは抗生物質の内服を続けていきます。
手術
憩室炎で症状が悪化してしまった場合には手術が必要になる場合もあります。
腹膜炎を起こした場合や、憩室周囲に膿が溜まってしまった時には手術しなければいけません。
腹膜炎の場合には命に関わる危険性がありますので、人工肛門にし、腹腔内の洗浄、また膿が溜まる事のないように管を入れる手術となります。
憩室炎は再発しやすく、合併症を引き起こす危険性もあります。憩室炎になった場合、憩室があって異常を感じた場合にはすぐに病院を受診してください。
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