後頭部のしこりを押すと痛い!【何科で受診すればいい?】
<監修医師 まっちゃん>
今回は後頭部にできたしこりを取り上げます。
しこりの原因によって、形成外科、皮膚科、耳鼻咽喉科など受診する診療科が異なります。それぞれの病気の特徴を知った上で対処しましょう。
気になる所から確認してみよう
痛みの無い後頭部のしこりは石灰化上皮腫の可能性大
ここでは「石灰(せっかい)化上皮種(じょうひしゅ)」という病気について説明します。
石灰化上皮腫は、若年層とくに子供に多く見られる良性腫瘍(※)です。まぶたや首、腕などにできることが多いです。
石灰化上皮腫は皮膚の一部が硬く石灰化して、しこりを形成します。なぜ石灰化上皮種ができるのか、原因は分かっていません。
ほとんどの場合、触れても痛みはありません(無痛)。レントゲン検査などでしこりが石灰化していることが分かれば診断は付きます。
ただし、悪性(がん)のものか良性のものかを鑑別することが重要なため、石灰化上皮腫の摘出手術を行った後、組織を顕微鏡で確認(病理検査)します。
手術中、じっとしていることが可能な年齢(小学校高学年くらいから)であれば局所麻酔の日帰り手術も可能です。幼い子供であれば全身麻酔で手術を行います。
(※)一般的に良性腫瘍は、悪性腫瘍に比べて進行が遅く、転移はしません。また「可動性があって、周囲の組織との境界が明瞭」という特徴を持ちます。
悪性腫瘍の場合は、周囲の組織とベタっとへばりつくように腫瘍が形成されるため、押しても動きが良くありません。
常に痛みがあるしこりやこぶの2つの原因
見出し1では痛みのない後頭部のしこりについて述べました。ここでは、「痛みのある後頭部のしこり」から考えられる病気について説明します。
リンパ節の腫れ(リンパ節炎)
全身に張り巡らされているリンパ管の中を、リンパ液という液体が流れています。
リンパ液は老廃物を運んだり(排泄運搬機能)、細菌やウイルスと戦った後のリンパ球を運ぶ(免疫機能)などの働きをしています。
また、いくつかのリンパ管が合流する箇所をリンパ節と言い、全身に分布しています。
リンパ節は、後頭部の髪の生え際付近(後頭リンパ節)や耳の裏(耳介後(じかいこう)リンパ節)にもあり、この部分に炎症が起こると、①腫れ(腫脹)、②痛み(疼痛)、③熱を持つ(熱感・発熱)、④赤くなる(発赤:ほっせき)という4つの症状が現れます。
これをリンパ節炎と言います。②の場合は頭痛、首筋の痛みとして感じられることがあります。炎症が進行すると、外側からしこりとして触れることができます。
リンパ節に炎症が起こる主な原因は細菌感染、ウイルス感染などがあります。
他にも、過労やストレス、睡眠不足などによって免疫機能が低下すると、老廃物の排泄が上手くできずにしこりが生じることがあります。
皮下出血
皮下出血とは、皮膚の下にある血管が打撲などの刺激によって破れ、血管内の血液が漏れ出た状態のことです。一般的に内出血と呼ばれる状態です。
このとき、血液は血小板の働きによって固まり、皮下血腫(ひかけっしゅ)を形成するために体外には出ず、外側からは紫色~暗赤色をして見えます。
この皮下血腫がしこりです。皮下組織のみを損傷した場合は痛みはなく、皮下組織よりも深いところにある筋肉を損傷した場合に痛みが生じます。
通常、皮下血腫は自然と組織に吸収されます。
しこりを押すと痛い!急に大きくなったら要注意
さて、ここでは「押すと痛む場合」、つまり後頭部のしこりの圧痛がある場合に考えられる病気について説明します。
粉瘤(ふんりゅう)
粉瘤(アテローム)は皮下(表皮)にできる良性腫瘍で、表皮性嚢腫(ひょうひせいのうしゅ)とも呼ばれます。顔や首、耳、おしり、背中など様々な箇所にできます。
粉瘤内には肌のターンオーバー(新陳代謝)の乱れによって溜まった古い角質や皮脂が詰まっています。
粉瘤は放置すると徐々に大きくなって、数cmほどに成長し、その中央部に黒い点があるのが特徴です。
また通常、圧痛などの症状はありませんが、細菌感染を起こして化膿してしまった場合は圧痛や臭いなどを伴います。
粉瘤はニキビと外見上似ているため、鑑別が必要です。ニキビは毛穴(毛包:もうほう)に皮脂や角質などが詰まり、細菌感染によって炎症を起こした状態です。
しかし、大きさは数mm程度と小さく、中央部に黒い点はなく、臭いを伴いません。
脂肪腫
脂肪腫とは、皮下組織や筋肉組織などの軟部組織にできる良性腫瘍で、最もポピュラーなものです。
字の通り、脂肪腫は脂肪組織でできています。40代から50代の中年女性に多く見られ、後頭部の他にも、背中、肩やおしり周りにも生じます。
ほとんどの場合、単発性(1人の人に対し、1個の脂肪腫のみができること)ですが、稀に多発性(1人の人に対し、複数の脂肪腫ができること)となる場合もあります。
圧痛があることもありますが、ほとんどの脂肪腫は症状がなく、経過観察となります。
脂肪腫の大きさは様々ですが、大きいものだと5cm以上になります。良性腫瘍のため、徐々に大きくなっていくのが特徴ですが、①急激に膨張した場合(5cm以上)、②痛みがある場合は、次に述べる脂肪肉腫との鑑別が必要となり、注意が必要です。
脂肪肉腫
脂肪肉腫とは、脂肪細胞に似た細胞が軟部組織にできる悪性腫瘍(※)です。
こういった軟部肉腫は、悪性腫瘍全体で見ると数は少ないものの、軟部肉腫に占める脂肪肉腫の発生割合は比較的高くなっています。そのため、脂肪腫との鑑別が大切になります。
脂肪肉腫は40代から60代の男性にやや多く発生し、子供にも見られます。後頭部よりも四肢(手足)、特に太ももに発生するケースが多いです。
(※)悪性腫瘍というと、イコールがんというイメージのある人も多いのではないでしょうか。
厳密に言えば、胃や大腸、肺、子宮、乳房などの「上皮(じょうひ)」と呼ばれる部分にできる悪性腫瘍を「がん」と言います。
一方、脂肪や筋肉、骨や軟骨などの「上皮以外」に悪性腫瘍ができるものを「肉腫」と言います。
肉腫はがんに比べると発生件数が少ないために、悪性腫瘍イコールがんというイメージがつきやすいのかもしれません。
4つの病気が原因のしこりには要注意
「頭頸部(とうけいぶ)がん」つまり顔や首に発生するがんの症状の一つとして「後頭部のしこり」が現れる場合があります。
実は、頭頸部がんと言っても、口、鼻、のどなど様々な部位に分かれ、すべてのがんの中の5%を占めています。
ここでは、頭頸部がんの中でも比較的発生件数の多い4つのがんについて説明します。
口腔(こうくう)がん
口腔がんは、舌や歯茎、頬の粘膜など口の中にできるがんをまとめて言います。50歳以上の中高年に多くみられるがんです。
主な症状として、口の中の痛み・出血・しこり・しびれ・白い部分や赤い部分がある、首のリンパ節の腫れ(しこり)、口内炎・口臭が治らないなどがあります。
様々ながんのリスクを上げる喫煙や大量飲酒の習慣がある人以外にも、頻繁に頬や舌を噛む癖がある人、偏食のある人、歯磨き・入れ歯の手入れができていない人も口腔がんのリスクを高めます。
咽頭(いんとう)がん
咽頭は鼻やのどの奥にあり、空気と食物の両方が通る部分です。鼻に近い方から上咽頭、中咽頭、下咽頭に分けられます。
この部分にできたがんが咽頭がんです。咽頭がんが首のリンパ節(頸部リンパ節)に転移すると、しこりとして触れることがあります。
上咽頭がんの主な症状は、鼻づまり、耳が聞こえにくい・詰まったような感じがする、物が二重に見えるなどです。
中咽頭がんの主な症状は、のどの痛み・違和感・しみる感じ、飲み込みにくさなどです。
下咽頭がんの主な症状は、のどがしみる感じ、飲み込みにくさ、耳の周りの痛みなどです。
上咽頭がんは若い人にも見られるがんですが、中咽頭がんや下咽頭がんは50~60代の喫煙者や多量飲酒者に多く見られるがんです。
喉頭(こうとう)がん
喉頭は喉仏に囲まれた場所にあり、気管につながります。ここにできるがんを喉頭がんと言います。
進行すると、のどの違和感・痛み、声がかれる(嗄声:させい)、痰に血が混じる(血痰:けったん)、息がしにくくなる(呼吸困難)などが現れます。
首のリンパ節が腫れることも多いです。喉頭がんは50歳以上の男性に多く、特に喫煙は喉頭がんのリスクを確実に高めます。
甲状腺がん
甲状腺は喉仏の下にある器官で全身の代謝に関わるホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌しています。この部分にがんができるものを甲状腺がんと言います。
触診で甲状腺のしこりを触れる以外、目立った症状が出ないことがほとんどです。
男性よりも女性に多くみられるがんで、遺伝的な要因の他に、20歳未満での放射線の大量被爆があると発症のリスクが増します。
原因によって何科で診察してもらうか解説
ここでは、見出し1から見出し4までに紹介してきた病気について、それぞれ何科を受診すれば良いのかについて説明します。
石灰化上皮腫や脂肪腫は形成外科へ
石灰化上皮腫の場合は手術で取り除く必要があるため、形成外科が専門になります。
ただ、近所に形成外科を持つ大きな病院がない場合は、まずかかりつけの小児科(石灰化上皮種は子供など若年層に多く見られる病気のため)や皮膚を受診し、そこから紹介状をもらって受診すると良いでしょう。
脂肪腫の場合は悪性腫瘍である脂肪肉腫との鑑別が重要なため、手術のできる形成外科を受診しましょう。
粉瘤は皮膚科へ
粉瘤の治療は皮膚科が専門になります。
頭頸部がんは耳鼻咽喉科へ
見出し4で紹介した頭頸部がんの場合は耳鼻咽喉科が専門となります。
後頭部のしこりの対処法3選
原因が分からない場合は、まず専門医の診察を受けること
後頭部のしこりが何かによって対処法は異なります。中には温めたり、冷やしたり、マッサージしたりといった刺激を避けた方がよい場合もあります。
しこりの原因が分からないときは、まず検査を受けることをお勧めします。
炎症の場合は冷却する
細菌やウイスルなどの感染によって炎症が起こっている場合は、保冷剤をガーゼなどにくるむなどして患部を冷やすようにしましょう。
首周りの筋肉がこわばっているときは温める
デスクワークや長時間の同一姿勢によって首周りの筋肉が緊張しているときは、その周辺の血流も低下しているものです。
マッサージ、ストレッチ、入浴などによって筋肉を温めるようにすると症状は軽減します。
当記事は医師、薬剤師などの専門家の監修を受けておりますが本サイトで提供する情報、文章等に関しては、主観的評価や時間経過による変化が含まれています。 そのため閲覧や情報収集は利用者ご自身の責任において行っていただくものとしその完全性、正確性、安全性等についていかなる保証も行いません。