摘便の必要性を理解して【摘便の仕方やコツを知れば怖くない】
<監修医師 豊田早苗>
長期間寝たきりの患者さんや、筋力の衰えている高齢者等、自力での排便が不可能な方には摘便という処置を行う必要があります。
便秘薬や下剤を使用しても、排便ができない場合には選択肢に入れなくてはなりません。
今回は摘便の必要性や方法、注意点、禁忌等について解説いたします。また摘便を回避する為に便秘の原因や便秘にならない工夫についても解説いたします。
気になる所から確認してみよう
摘便とは?
摘便とは、直腸内に貯留している硬便を、肛門から指を入れて摘出する医療行為の事。摘便による苦痛や、キズ口からの感染等、様々なリスクがある為、医療機関で看護師が行います。
浣腸をしても、何らかの対処法を行っても自然排便できないような時、便が固くなり貯留してしまい、そのままにすると腸閉塞等の合併症を起こす危険性もあります。
摘便は、そのような場合に行ういわば最終手段です。
患者さんにとっては苦痛を伴う摘便の処置は、細心の注意をはかり、精神面のサポートも必要です。
なぜ摘便が必要か
直腸内に蓄積した宿便を摘便により排出させて、排便状態を整えなければなりません。
自然排便が困難な場合に行いますが、便秘が長期間続いていて強い痛みがあったり、下剤や浣腸を使用しても便意を感じない時にも行います。
浣腸についてはこちらを参考にして下さい。
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また寝たきりの高齢者や衰弱してしまい、力めない場合には、十分に腹圧がかけられずに便を自力排泄する事ができません。
また検査でバリウムを飲む際には下剤が処方されますが、薬効が思うように現れず、十分に排泄されない患者さんも摘便を行う場合があります。
そのまま放っておくと腸閉塞や命に関わる合併症を引き起こしかねないのです。
いざ摘便!しっかり準備して試みよう
摘便に必要な準備品についてお話します。
まず肛門から入れるグローブですが、ポリエチレンやシリコン等、肌への刺激が少ないものが良いでしょう。
それから肛門に指が入りやすいように潤滑剤としてワセリンやキシロカインゼリー等を使います。
ワセリンについてはこちらを参考にして下さい。
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また防水シーツを敷き、ポリ袋も用意しておきましょう。
タオルやシーツを使い、陰部保護等、不必要な肌の露出を避け、患者さんの羞恥心に配慮しましょう。
汚れてしまった肛門部等は滅菌ガーゼやおしり拭き、紙ナプキンで清潔にします。
また肛門周辺を傷つけないように爪が伸びていないかどうかも注意しましょう。
痛くない!摘便の仕方やコツを知ろう
次に痛くない摘便の仕方やコツについてです。
事前に対処法を知っておく事で、自分で気を付けられる事もありますよね。リラックスして受けられるようにしましょう。
手袋
手袋に潤滑剤をたっぷりつけないと痛みがさらに強くなってしまいます。ワセリン等を十分につけ、静かに挿肛します。
声かけ
何をされているかわからないと、患者さんは余計に不安になってしまいます。
患者さんに声かけをしながら少しずつゆっくりと処置を行います。
リラックス・口呼吸
処置をする時には患者さんにリラックスをしてもらう事が一番重要です。緊張して力が入っていると、なかなか挿肛もできずに強い痛みを感じてしまいます。
口呼吸をするようにしてもらい、いきまないように説明をします。口呼吸をする事により、腹壁の緊張がほぐれ、肛門括約筋の緊張を緩める効果があります。
腹部マッサージ
硬便を一度に一気に取り出してしまうと強い痛みを感じます。肛門部に近い便の塊から徐々に指でゆっくりと掻き出し、くれぐれも腸粘膜や肛門を傷つけないように注意します。
そして指周辺に便の塊がなくなったら、患者さんの腹部をマッサージしたり、少し力んでもらうようにすると、便が下に下にと下りてきます。
仰臥位
処置が終了した後は、おしりや肛門周辺は清潔にし、身の回りや衣類を整えます。処置中は左側臥位で行う為、終了後は姿勢も仰臥位にし、安静にしてもらいましょう。必要に応じて部屋の換気等も行います。
適切な処置で摘便を行わないとこんな危険がある
必要な患者さんには行わなければならない摘便の処置ですが、リスクや注意しなければならない事があります。
まず処置による直腸穿孔や直腸壁損傷には十分に注意しなければなりません。肛門から出血があった場合には、すぐに中止し、ガーゼで圧迫して止血を行います。
下血があった場合には、直腸穿孔や直腸壁損傷等の危険性がある為、バイタルサインや患者さんの状態をすぐに医師に伝えます。
バイタルサインについてくわしくはこちらを見て参考にして下さい。
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痔核のある患者さんや、出血傾向の患者さん、肛門病変や直腸病変のある患者さんは、処置中に出血を起こすリスクが非常に高い為、常に患者さんの状態をよく見る必要があります。
この摘便の処置を行えない禁忌の患者さんは、血小板数が少なかったり、血液凝固因子の不足により出血傾向にある患者さん、直腸腫瘍のある患者さんとなります。
また子供は腸が柔らかく傷つきやすくなっています。小児科か便秘外来等、安全性が確立できる場合にだけ行い、できるだけ他の方法での排便コントロールをしましょう。
便秘の8つの原因を知って摘便を回避しよう
便秘の原因を知る事で、便秘を防ぎ、摘便を回避しましょう。腸の蠕動運動が便秘には大きく関与しており、蠕動運動が弱まる事で便秘を引き起こします。
また食生活や生活習慣等も関係がありますので、生活習慣の見直しも心掛けましょう。
器質性便秘
大腸腫瘍や大腸潰瘍、子宮筋腫、腹膜炎等の病気により、腸の働きが阻害されダメージを受けている事で便秘が起こります。
この場合は原因となっている病気の治療をまず行わなければなりません。便秘の症状等に関しては、主治医にご相談ください。
腸筋力低下
高齢や病気等で長期間の寝たきり状態の場合、運動不足で全身の筋力低下が起きます。腸も同様に筋力低下を起こして蠕動運動が弱まり、便秘となります。
薬剤の副作用
薬剤には副作用で消化管の動きを抑制する作用を持つものがあります。
抗うつ剤等の精神科薬、抗てんかん剤等の脳神経に作用する薬、咳止め薬や降圧剤等が消化管の動きを抑制する副作用を持ちます。
こちらも持病の治療が最優先ですので、自己判断で薬をやめず主治医にご相談ください。
抗うつ剤についてはこちらも参考にして下さい。
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ストレス
近年はストレス社会といわれる程、ストレスを抱えている人がとても多い世の中です。大腸の蠕動運動は、副交感神経によって制御されています。
人間の身体はストレスにさらされる事で、交感神経が優位の状態となってしまい、大腸の蠕動運動に影響が生じます。
蠕動運動が抑制されすぎてひどい便秘になってしまったり、活発になりすぎる事で痙攣を起こす事もあります。
また大腸の蠕動運動が活発になりすぎる事で、便秘や下痢を繰り返すストレス性の便秘となってしまうのです。
このストレスが引き起こしている便秘の場合に、下剤を使用すると蠕動運動をさらに促進させてしまい、便秘が悪化してしまうので、使用しないようにしましょう。
運動不足
デスクワークや長時間労働等の原因により、運動不足の人が多くなっています。運動不足により腹筋の筋力低下が起きてしまい、便秘が起こるとされています。
腹圧を高めるいきむ動作を行うと蠕動運動の促進や、周りの筋肉に刺激を与えて腸の働きを活発にする効果が期待できます。軽い筋トレや、腸のマッサージ等、軽度な運動を毎日行うようにしましょう。
水分不足
人間の身体は水分の摂取量が少ないと、尿・汗・便等の体外に排出すべき水分量を減らそうとします。そのような働きから、便秘の時には便の水分が足らずに固くなって宿便となってしまいます。
宿便は腸内に長時間貯留し、腸に水分を吸収されてしまい、便がさらに固くなって排出ができなくなってしまいます。普段からこまめな水分補給を心掛けましょう。
食物繊維不足
野菜不足等により食物繊維の摂取量不足、無理なダイエットによる食事量の減少により、便の量が減りスムーズに排出できない状態になります。
また食物繊維は腸の蠕動運動を促進したり、腸内細菌のエサとなる働きもあるのです。食生活を改めて見直し、バランスの良い食生活を心掛けましょう。
腸内細菌不足
ストレスの影響や、飲酒により腸内環境が悪化します。そして善玉菌の減少、悪玉菌の増加により、腸内バランスが崩れ、腸の動きが阻害されます。
腸内細菌の量が減少する事で、便として排出される菌や死骸の量も減ってしまうのです。ストレスをなるべく少しでも解消できるようにし、飲酒は控えるようにしましょう。
摘便の精神的ケアは出すことより重要
摘便は患者さんの羞恥心を伴う為、必ず事前に同意が必要です。きちんとした摘便の目的と方法・注意点についての説明が必要です。
リスク等も説明した上で、摘便の必要性も理解してもらい、納得して同意書を書いてもらいましょう。
また処置の前にはきちんと患者さんの今までの経緯や状態をアセスメントする事も重要です。
処置中には、バイタルに十分に注意し、声かけ等をしながら、不快感や苦痛を最小限に留めるように努めなければいけません。
またセルフ摘便は行わないようにしてください。あくまで摘便は医療行為であり、セルフ摘便は非常に危険です。
血圧の急降下による失神や、大量出血等、緊急事態になりかねません。摘便を回避できるようにする事と、摘便を受ける際には必ず医療機関で受けるようにしましょう。
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