日常生活を取り戻す在宅酸素療法とは【注意点や適応を詳しく解説】
<監修医師 豊田早苗>
私達は日々「呼吸」をしながら生きている生き物です。しかしながら、病気あるいは病状は安定しているが呼吸により酸素が身体の中に十分に取り込めないなどの問題を抱えている方もいます。
その際に役立つのが「在宅酸素療法」です。今回は在宅酸素療法についてお話ししていきましょう。
気になる所から確認してみよう
在宅酸素療法とは?
在宅酸素療法=Home(在宅)Oxygen(酸素)Therapy(療法)で通称「HOT」と言われています。
これは先程も少しお伝えしましたが、病気あるいは病状は安定しているが呼吸により酸素が体の中に十分に取り込む事の出来ない患者さんに対し、酸素供給機を使って、必要な時や24時間、酸素吸入を行う治療を「自宅」で行う治療法です。
一定の酸素をきちんと供給していく事で、日常生活を円滑に送る為の手助けをする事が可能になります。
生活向上!在宅酸素療法の嬉しい効果
在宅酸素療法を行う事で日常的に安定した呼吸を行い、身体に酸素を必要な量取り込む事が可能になりますので、家庭生活や生活の質(Quality of Life)を高める事が可能になっていきます。
また呼吸による問題を抱えて仕事が出来なかった方も、在宅酸素療法によって職場復帰が可能になります。
その他にも在宅酸素療法を行う事によって、今まで息切れのあった方の改善、病気治療の為の入院の回数の減少、記憶力や注意力の維持なども見込まれており、生活を生き生きと送る為の手助けをしてくれます。
在宅酸素療法の適応基準をチェック
在宅酸素療法は身体への酸素供給の手助けをし、患者さんの生活の質を向上してくれる事に役立ち、また健康保険を適用する事が可能になります。健康保険の適用条件には以下の適応基準があります。
1.高度慢性呼吸不全の患者
安静にしている際の空気呼吸での血液ガス分析で動脈血酸素分圧PaO255mmHg以下、もしくは、PaO260mmHg以下で、睡眠中や運動をした後に著しい低酸素血症になる場合に適用されます。
適応の際には動脈から血液を採取しPaO2の値、酸素飽和度の測定などの必要な検査を行ったりします。
呼吸器の疾患としては「COPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺線維症、結核の後遺症」などが対象となってきます。
2.肺高血圧症
肺高血圧症とは、肺の血管が狭くなり、血液が流れにくくなり、肺動脈の血圧が高くなってしまう病気です。
肺動脈の血圧が高くなると、心臓は、大きな力で血液を肺動脈に送り出さなくてはいけなくなり、肺動脈に血液を送り出す右心室に負担がかかり、右心不全が起こる病気です。悪化すると生命の危険があります。
3.慢性心不全の対象患者
日常的生活動作のうち、比較的軽い動作での疲労、動悸、呼吸困難、狭心痛などがある患者さんで睡眠時チェーンストークス呼吸(呼吸リズムの周期的な異常の事)、
無呼吸低呼吸指数(1時間当たりの無呼吸数または低呼吸数の事)が睡眠時のポリグラフィーによって20以上確認されている事。
ここでいう無呼吸とは睡眠時に10秒以上呼吸が止まっている状態を指し、低呼吸は1回の換気量が通常の半分になっている状態が10秒以上続く状態を指します。
4.チアノーゼ型先天性心疾患
チアノーゼ型先天性心疾患の中には「ファロー四徴症、大血管転移症、三尖弁閉鎖症、総動脈幹症、単心室症」などがあり、この疾患は発作的に低酸素または無酸素状態になる事が考えられます。
その為、発作が起こった際に在宅で酸素を供給出来るように在宅酸素療法を行います。
在宅酸素療法は保険適用の治療法になりますが、その適応基準を満たしているかどうか、医師の診察や検査が必要になってきます。
在宅酸素療法を実施するためには
在宅酸素療法とは何か、適応基準などをお話ししていきましたが、この在宅酸素療法を実施する為の流れをお話ししていきます。
1.検査や問診
かかりつけ医との問診、自覚症状の有無や必要な検査を入院などによって実施し、総合的に判断します。
2.酸素吸入の導入決定
在宅酸素療法の導入が決定すると、酸素の吸入量や時間などを検討し、酸素供給装置を選択します。また携帯用の酸素ボンベが必要かどうかなども検討します。
3.在宅酸素療法教育を行う
在宅酸素療法の必要性や使用の際の注意点、緊急時の対応、日常生活における留意点などを医療機関から患者さんへ説明します。
4.院内トレーニング
医療機関からの説明後に、実際に使用してみます。
5.退院・酸素供給装置の搬入
装置の使用開始日などが決まったら、退院後に自宅へ酸素供給装置を設置・搬入し、搬入した業者から再度説明(緊急連絡先や機器操作の説明など)を受けます。
退院の際は経過観察の為の外来受診日を決定しておきます。
6.定期的な訪問指導
在宅酸素療法に関しては定期的な往診、訪問看護、訪問診療による指導管理が必要になります。患者さんは指導内容を聞き、説明を受けます。医療機関の診療録にもその旨の記載が必要になります。
7.外来受診による経過観察
外来受診によって検査を受け、実際に酸素がきちんと吸入出来ているかの確認、器具の確認などを行います。酸素供給装置に関しては業者さんが定期的に訪問し、メンテナンスを行います。
以上のように、検査や医療機関など細かい指導を受ける事によって安全に在宅酸素療法が受けられるようにします。
在宅酸素療法には必要な装置がある
在宅酸素療法にはお話ししてきたように「酸素供給」を行う為の必要な装置があります。装置についてもご紹介していきましょう。
1.酸素濃縮装置
空気を取り込んで窒素を吸着させて、酸素濃度を90%以上にして供給する装置になります。外出や非常時に備えて、携帯用酸素ボンベの併用が必要になります。
2.液体酸素装置
低温液化した酸素を少しづつ気化させて、酸素を供給する装置になります。電気が不要になりますので経済的であり、酸素濃度も99.5%以上の高濃度の酸素を供給する事が可能になります。
3.その他に必要な装置
✅ パルスオキシメーター・・指装着し、血液中の酸素飽和濃度を測定する装置。携帯用などもあり、身体の状態を知る事が出来ます。
✅ カニューラ・・鼻腔に装着し、酸素供給装置から酸素を供給する際に必要なチューブ。
✅ ピークフローメータ・・呼吸不全の状態を知る為の機械。
在宅酸素療法を行う為には、これらの装置が必要になってきます。外出や移動などには携帯用などもあり、日常生活に合わせて装置を使う事が可能です。
絶対守って!在宅酸素療法の注意点
在宅酸素療法を行う際には日常において、注意しなければならない点がいくつかあります。
✅ 体調管理を自身でも気を付ける。
(普段の日常生活において、健康状態には十分に気を付けて、体調不良や変化に気付いた場合にはすぐに医師の診察を受けましょう。
頭がぼーっとするなどの症状が出た場合には酸素濃度が合っていないなどの可能性もあります。)
✅ 火気の取り扱いには十分に気を付ける。
(酸素は燃えやすい性質がある為、火気厳禁です。室内環境を整えるようにしましょう。
配置する周辺に消火器を置く様にし、直射日光や線香を置いている仏壇の近くなどでの使用は避けるようにします。また十分に換気をする事も大切です。)
✅ タバコは吸わない・・火気厳禁である為、タバコは吸わない(禁煙)ようにしましょう。
健康面でも良くありませんし、酸素は燃えやすい性質ですので、酸素を吸入しているカニューラなどに引火すると、顔を火傷してしまう大けがに繋がる可能性もあります。在宅酸素療法を行っている間に関しては禁煙しましょう。
日常生活も健康に心がけよう
在宅酸素療法を行う際には合わせて、健康管理にも気を配らなくてはなりません。
病状を悪化させない為にも
✅ 日常の体調管理が必要。
(帰宅時の感染症予防の際のうがい・手洗い、規則正しい食事や睡眠などを心がける。) ✅ 冷暖房の温度に気を付ける。 (室内と外の温度差が極端なのも避けましょう。) ✅ 定期的な医師の診察を受けるようにしましょう。 ✅ 禁煙を心がけましょう。 ✅ インフルエンザ、肺炎球菌ワクチンの予防接種など、症状が酷くならないように予防接種を医師と相談の上、摂取するようにしましょう。 |
日常生活でも病状を悪化させないための注意が必要になります。自分自身、そして身近なご家族による協力が必要になります。
在宅酸素療法によって、病気による酸素濃度の低下を防ぐ事が可能になり、日常生活を支障なく送る為の手助けをしてくれます。気になる症状がある場合には、医師に相談、診察を受けて活用するようにしましょう。
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