肺動脈性肺高血圧症の特徴的な症状はコレ【気になる生存率は……】
<監修医師 ドクターTST>
肺動脈性肺高血圧症という病気をご存じでしょうか。
なんだか漢字ばかりの病名で、読むのも億劫かもしれませんが、つまりは「肺動脈」で起こる「高血圧」のことです。
今回は肺動脈性肺高血圧症はどんな症状が出る病気なのか、分かりやすく解説していきます。
肺動脈性肺高血圧症とは?
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は「難病」です。循環器系・呼吸器系に分類される疾患で、100万人に4.8人の有病率と言われています。
男女比率で見ると、女性のほうが男性の2倍。加齢とともに患者数も増えていきますが、特に男性では20代で発症することも多くなっています。
原因
この病気がどういった経緯で発症するのかは分かっていません。
しかし膠原病やHIV感染、先天性心疾患などのほかの病気と併発しているケースや、食欲抑制薬などの特殊な薬を飲んでいるケースなどが確認されています。
また、一部の遺伝子が発症に関与しているとされ、「遺伝性PAH」と呼ばれます。
一方で、全くの原因不明ということもあり、検査などで併発している病気などが何も見つからない場合には「特発性PAH」と呼ばれます。
メカニズム
では、実際にどんな病気なのか見ていきましょう。
まずは「肺動脈」について。これは、心臓から肺へと伸びる動脈のこと。全身で使われて心臓へと戻ってきた血液(静脈血)を肺へと送る血管です。
心臓から肺へと送られた血液(動脈血)は、肺で酸素を取り込んで新鮮な血液(静脈血)になり、再び心臓へと戻され、そこから全身へと送り出されていきます。
続いて、肺の「高血圧」とはどんな状態か。何らかの原因によって、肺動脈が狭くなったり硬くなったりしてしまうと、血液の流れが悪くなりますよね。そうすると、肺へと送られる血液が少なくなってしまいます。
しかし、肺動脈が詰まった状態でも、心臓は血液を肺へと送らなくてはいけません。詰まった血管に無理に血液を流そうと心臓が頑張ってしまうと、心臓に負担がかかって疲れてしまうのです。
そして、無理に細い血管に血液を流すため、肺動脈内の圧力(血圧)が上昇してしまう。この状態が、肺の「高血圧」なのです。
つまり、肺動脈性肺高血圧症とは、心臓の負担と、肺動脈での高血圧が現れる病気です。
その他の肺動脈で生じるおそれのある疾患についてはこちらも参考にして下さい。
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肺動脈性肺高血圧症の症状
初期
肺動脈性肺高血圧症は、肺動脈の血流が悪化しているだけなので、初期は安静にしていれば自覚症状は見られません。
運動などをすると、酸素が足りなくなってしまうため、心臓に負担がかかって以下のような症状が出ます。
✅動悸
✅息切れ・呼吸が苦しい ✅胸痛 ✅だるい・疲れやすい ✅咳が止まらない・喘鳴(呼吸がゼイゼイする) ✅嗄声(声がかすれる) ✅血痰 |
運動をすると誰でも動悸や息切れはしますが、それらが酷い場合や、急に起こるようになったという場合には、念のため病院を受診しておくと安心でしょう。
また、無理をすると失神してしまうこともあり、小さい子供などは、それで気づくこともあるようです。
進行すると……
病気が進行すると心臓の負担が蓄積していき、心機能が低下してしまいます。
肺動脈は心臓の右心室から伸びていますが、右心室は高い圧力に弱いため、それに耐えられず拡大し、「右心不全」を起こして機能低下を起こします。
また、全身で使われた血液が最後に戻ってくる右心房でも異常(心房圧上昇)が起こることも。それらの影響で現れる症状には、以下のようなものがあります。
✅食欲不振
✅少し動いただけで息切れ
✅全身のうっ血
✅顔面や足のむくみ
✅肝臓肥大
特に、足のむくみは「右心不全」が起きているサインなので見逃せません。
むくみから見る身体の疾患についてはこちらを参考にして下さい。
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肺動脈性肺高血圧症の治療や生存率
検査について
この病気は非常に珍しい難病なので、診断されるまでには様々な検査を受けることになります。その中でも重要なのは「右心カテーテル」です。
カテーテルを血管内に挿入して、肺動脈の血圧を測定します。基準は25mmHg、それ以上の場合に肺動脈性肺高血圧と診断されます。
治療について
心臓と肺の病気なだけに、すぐ手術となりそうですが、まずは薬の服用などの内科的治療から。使われる薬は、肺血管を拡張させる薬や、血液をサラサラにする薬で、飲み薬や点滴があります。
現在では新しい薬も開発されているため、薬だけでも症状の改善が見込めます。
それでも酸素不足が起きる場合には、酸素吸入を。改善が見込めない場合には、肺移植などの外科的治療を行うようになります。
心のケアも大切!
身体のケアとともに大事なのが心のケアと言われています。肺動脈性肺高血圧は、20~30代で発症することもあり、病気を受け入れられずに精神的に不安定になってしまいます。
「やりたいことが出来ない」「治療は辛いのかな?」「死ぬかもしれない……」と、不安に思う気持ちを抱え、酷い場合には、うつ病になってしまうことも。
そのため、本人だけでなく周囲の人も病気のことを理解し、患者をサポートしていく体制が必要になってきます。
間違っても、動悸や息切れで仕事の手がストップしているからといって、「サボっているんじゃないか」なんて思ってはいけません。
生存率について
さて、気になる生存率についてお話します。難病である以上、この病気は完治が非常に難しいとされています。
また、予後も良くないため、治療で症状を緩和しつつ余命を延長させることが中心となってきます。
岡山医療センターのデータによると、肺動脈の血圧が60mmHgの人が、治療で45mmHg未満にまで落とした場合、10年生存率は100%になるそう。
しかし、45mmHg未満に落とせなかった場合には、10年生存率は49%になってしまいます。
つまり、治療でどれだけ肺動脈の血圧を落とせるかがポイントとなってくるということです。
しかし、以前は余命3年弱と言われていたため、薬の開発などでここまで延ばすことが出来たのは大きな成果と言えるでしょう。
新薬の開発や新しい治療法など、今後の医療の進歩に期待したいですね。
高血圧の治療法についてはこちらも参考にして下さい。
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