魔法の手法ユマニチュードとは?【劇的な効果を実例と共に紹介】
<監修医師 豊田早苗>
認知症介護の現場において、介護者とのコミュニケーションは認知症を悪化させないために必要なプロセスです。
しかし認知症の進行具合によっては、コミュニケーションが難しく、相手を混乱させ暴力行為や暴言を受けることも少なくありません。
この問題を解決するために、フランスで考えられた新手法「ユマニチュード」が注目を集めています。
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ユマニチュードとは?
ユマニチュードとは、認知症ケアの目的でフランスにおいて開発されたコミュニケーション手法の一つです。この手法によって、介護者と対象者に信頼関係が芽生え、問題行動が大幅に減少する効果がみられました。
ユマニチュードは基本柱として4つの行為を推奨しています。それは「見る、話しかける、触れる、立つ」の4つです。さらに150を超える手法を含んでいます。
ユマニチュードの4つのアクション
見る
認知症患者は視野が狭い傾向にあります。そのため、まずは相手の前に立ち目線を合わせましょう。
この時20㎝ほどの距離を保ちます。そして親しみを込めて相手を見つめることで、相手に自分の存在を好意的に認知してもらうのです。
話しかける
次に親しみを込めて相手に話しかけましょう。この時返答がない事もありますが、気にせず常にポジティブな印象の言葉をかけるようにします。ケアをする際にも、ケア内容を実況のように話しかけるようにしましょう。
触れる
ボディタッチは相手との信頼関係を得る上でとても効果的です。優しく背中を包み込むように手を回すようにすることで、相手に安心感を与えることができます。
立つ
ユマニチュード考案者のイブ・ジネスト氏は「自分の足で立つことで人の尊厳を自覚する」と提唱しています。
立って周囲を見回すことで自分の置かれている状況を理解し、意欲的な行動につながることがあります。さらに1日20分以上たつことで、病気の予防や身体機能向上の効果があります。
これらの点に気を付けることで、認知症患者を一人の人間として尊厳を保ちながら接することができます。そうした心がけから介護者と患者の間に信頼関係を築くことが可能なのです。
絶対ダメ!ユマニチュードの3つのNG
認知症患者は予期せぬ事象への理解と判断が素早くできません。こういう時、反射的に暴力や暴言で身を守ろうとしてしまいます。
これが問題行動として認識されているのですが、根底にあるものは恐怖感や不安感なのです。そのためそれらの感情が起きないように配慮すれば、問題行動を減らすことができます。
突然体を掴む
私達もいきなり体の一部を掴まれたら良い気持ちはしません。必ず目線を同じにして立ち、声をかけてから体に触れるようにしましょう。
横、後ろから声をかける
認知症患者は視野が狭くなっているため、横や後ろから声をかけても介護者を認知することができません。相手が見えないのに声がする、これは言いようのない不安に駆られます。
無理に立たせる
突然訳も分からず起立させられると、後ろに倒れるのではないかという不安に陥ります。そのため抵抗し相手に暴力を振るってでも辞めさせようとするでしょう。
そうならないためにも、立つ事を伝えてから立たせるようにします。このとき、体を密着させて手で支えるように起立するようにしましょう。
ユマニチュードの驚くべき3つの効果
問題行動の減少
ユマニチュードでは、認知症患者に不安や恐怖を抱かせないよう関わっていくことを主体としています。
このため今まで介護者に対して抱いていた不満や不信感が払拭され、自然と問題行動が減っていくのです。
よく聞かれる内容に、奇声や暴力行為がなくなった、ケア後にお礼を言われるようになった、などの良好な変化がみられるようになっていきます。
コミュニケーションの円滑化
今まで抵抗されるからと、半ば強制的にケアをしていた環境ではコミュニケーションはあまり効果がないものでした。
しかしユマニチュードを取り入れると、介護者と認知症患者の間に信頼関係を築くことができ、コミュニケーションを円滑に行うことができます。
コミュニケーションのコツとしてはこちらも参考にして下さい。
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活気を取り戻す
ユマニチュードを取り入れている施設では、高齢者の活気向上や、寝たきりの人が立てるようになったという報告も聞かれています。
中には、塞ぎ込んでうつ様だった人が毎日のようにお化粧やお洒落を楽しむようになったというケースもあるようです。
これらの効果は、認知症患者といえども人としての尊厳を守りながら関わりを持ったことで、活気上昇効果、痴呆症の予防や改善につながっていたためと考えられます。
ユマニチュードで家族をケアしよう
ユマニチュードの有効性は、介護施設だけではなく在宅介護でも認められています。
家族に認知症を患う人がいた場合、介護はその子供や配偶者が行う事が一般的という考え方があります。しかし介護における負担は、想像していたものより辛く厳しいことがたくさんあるのが現実です。
さらに症状が進行してくると、コミュニケーションが難しくなる、言うことを聞かない、暴言や暴力行為が出てくる、といった症状が出現してくることがあります。
この精神的な負担から、家族でもついつい怒鳴ってしまう、命令口調になってしまうこともあるでしょう。ユマニチュードではこうした介護者の負担を軽減する効果が認められています。
例えば、暴言暴力徘徊といった問題行動は、家族と認知症患者の間の関係がうまくいっていない事で起こりやすいと言われています。
これらの問題行動を起こしている患者に、ユマニチュードを取り入れて関わりを持ったところ、8~9割の患者で問題行動の軽減がみられるようになりました。
また認知症の初期の段階でもユマニチュードを取り入れた介護をすることで、認知症の悪化を阻止する効果があると言われています。
初期の症状として
✅ 同じことを何度も繰り返す
✅ 物取られ妄想
✅ 日常生活がだらしなくなる
といった症状がみられるようになります。
これらは記憶障害や視野が狭くなる事で起こってきてしまう症状です。本人は悪気があってやっている事ではないため、真に受けず、否定せず、穏やかな口調で思いやりをもって返答するようにしましょう。
相手の感情を受け入れ、共感と傾聴を行うようにしましょう。
また、認知症の様な症状が出始めたからと言って、むやみやたらに世話を焼く事で、かえって認知症を悪化させることがあります。
認知症では環境の変化に適応することが難しいため、突然環境を大きく変える事は本人にとってもあまり良い事ではありません。
同居を始めるために家に呼ぶ、新しい環境に引っ越す、などでは過剰なストレスを与えることになってしまいます。
その結果新しい友人が作れず、見知らぬ土地に慣れる事もできないために引きこもりがちになり認知症が悪化することがあるのです。
対策としては、認知症と診断されても日常生活にすぐに問題が出ないような状態であれば、そのままの生活を続けられるように、できる限り家族が配慮することです。
日中の空き時間が心配ならばホームヘルパーに訪問してもらう、電話をかけるなどして安全の確認をするようにしましょう。
介護者が気をつけたいことについてはこちらを参考にして下さい。
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認知症になりにくい生活を心がける
現代医療では認知症を完全に予防、治療することはできません。しかし日常生活から認知症をある程度予防できることはわかってきました。ここでは認知症になりにくい生活習慣についてみていきましょう。
認知症のほとんどは、アルツハイマー型認知症です。
アルツハイマー型認知症では食生活や運動習慣、対人との関係、頭を使う習慣、睡眠週間が予防には重要だと考えられています。
食生活
食事はバランス良く食べるように心がけます。特に魚に含まれるDHAやEPAやポリフェノールを多く含む食品、野菜や果物には認知症を予防する効果が高いと言われています。積極的に摂取していきましょう。
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運動習慣
有酸素運動を週に数回取り入れるようにしましょう。有酸素運動とは、人と話しながら続けることができ、軽く汗をかける運動のことです。
散歩やスロージョギング、ウォーキングなどは特に負担も少なく簡単にはじめられます。可能ならば週に2回以上行うようにしましょう。
対人関係
会話では相手の話している内容を理解しながら自分の考えをまとめ、タイミングをとって話すという作業を頭の中で行います。この一連の流れは大変複雑な作業です。
このため人と関わることで脳の複数の場所が刺激され、脳の血流アップにつながり認知症予防に効果があるとされます
頭を使う
認知症予防には本を読む、文章を書く、頭脳ゲームをするなどの知的活動が有効と言われています。
特にゲームでは一人でパズルやドリルを解くよりも対人型の将棋や碁、オセロといったものが特に良い結果が得られるそうです。
睡眠
規則的正しい生活を行う上で睡眠はとても大事になってきます。睡眠時間を適度にとり、朝は日光を浴びるようにしましょう。昼寝をする場合は10~30分ほどにし、とりすぎないようにしましょう。
日光の効能についてはこちらを参考にして下さい。
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また「笑い」には心身の健康を保つ作用の他に、ボケ防止にとても効果があるとされています。
笑いには、免疫向上作用、脳の活性化、自律神経整調作用、α波の増加によるリラックス効果があるとされ、健康の維持に大変良い効果をもたらすとされています。
無理に声を出して笑うのではなく、人との会話やコミュニケーションで笑う事が大切です。
他にも、ストレスを溜めない生活や人生を楽しむといった前向きな姿勢も認知症予防に必要です。
認知症の予防や改善には、本人の努力も必要ですが、家族や介護者の援助も大変重要になってきます。もしなってしまったら、一番不安に感じているのは患者自身です。
この不安や恐怖を助長させないよう介護者は日常生活の関わり方を見つめなおさなければなりません。
ユマニチュードは認知症患者との新しい関わりかたとして注目を集めています。勉強会や講習会が各地で開かれているため、興味があったら一度受講してみるとよいでしょう。
また最近では看護についての新たな理論も提唱されています。くわしくはこちらを参考にして下さい。
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