クレアチンキナーゼとは? 【基準値より高い時はこんな病気の疑い】
<監修薬剤師 藤沢 淳司>
クレアチンキナーゼが初耳、何か分からないという方が大半ではないでしょうか。
クレアチンキナーゼとは私たちの筋肉に含まれる酵素です。一般的な健康診断の血液検査で検査することはありませんが、日本人の死因の第2位でもある心筋梗塞ではかなり重要な検査項目なのです。
今回はそんなクレアチンキナーゼについて詳しく述べていきます。
気になる所から確認してみよう
クレアチンキナーゼとは?
冒頭でも触れましたが、クレアチンキナーゼとは筋肉が収縮や弛緩する際に必要となるエネルギーを供給するのに必要な酵素でCK(Creatine Kinase)と言います。
あるいはクレアチンホスホキナーゼ(CPK:Creatine Phosphokinase)とも言います。
筋肉のエネルギー反応を理科の化学式のように説明しますと、以下のようになります。
① 筋肉を動かしているとき(筋肉のエネルギーを消耗させる反応)
クレアチンリン酸 + ADP → クレアチン + ATP
② 筋肉を休ませているとき(筋肉にエネルギーを蓄積させる反応)
クレアチン + ATP → クレアチンリン酸 + ADP
ATPもクレアチンリン酸もどちらもエネルギー貯蔵物質です。②の反応が起こるにはクレアチンキナーゼが必要となります。したがって、クレアチンキナーゼとはATPをクレアチンリン酸に変換させる酵素なのです。
クレアチンキナーゼに存在する3つの物質
クレアチンキナーゼには3タイプのアイソザイムがある
ここでは、クレアチンキナーゼの構造について、もう少し詳しく説明します。
クレアチンキナーゼ(CK)は、MとBという2つのサブユニットがくっついた形をしています。Mは筋肉(Muscle)のことで、実際に筋肉に多く存在します。Bは脳(Brain)のことで、こちらも実際に脳に多く存在します。
このMとBのサブユニットの組み合わせにより、クレアチンキナーゼにはCK-MM(Mのサブユニットが2つくっついた状態)、CK-BB(Bのサブユニットが2つくっついた状態)、CK-MB(MとBのサブユニットが1つずつくっついた状態)という3タイプのアイソザイム(分子構造の異なる酵素群)があります。
増えたアイソザイムのタイプによって病気が分かる
私たちの体の中で、3タイプのアイソザイムはそれぞれ別の部位に多く存在しています。
CK-MMは骨格筋、CK-BBは脳や平滑筋、CK-MBは心筋に多く存在します。
したがって、骨格筋、平滑筋や脳、心筋が損傷を受けると、それぞれの部位に多く存在しているアイソザイムが血液中に漏れ出し、血液検査において数値が上昇します。
このとき、数値が高くなったアイソザイムのタイプによって、どの部位が損傷しているのかを診断するのに役立つのです。
クレアチンキナーゼ値を測るのはどんな時か
簡易な健康診断ではクレアチンキナーゼを調べない
冒頭で述べたように、クレアチンキナーゼは一般的な健康診断の検査項目に含まれないことが多いです。その理由はいくつかあります。
まず、クレアチンキナーゼが異常値となる場合は自覚症状を伴うことが多く、医療機関を受診することが想定されるためです。
また、採血を伴うクレアチンキナーゼだけで診断できる病気が少ないのに対し、心疾患であれば心電図検査や心臓超音波検査といった、侵襲性の少ない(苦痛を伴わない)検査法の方が診断できる病気が多いことも理由の一つです。
心電図についてくわしくはこちらを見て参考にして下さい。
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クレアチンキナーゼは筋・心疾患の診断には重要
一方、人間ドックなど検査項目の多い健康診断はクレアチンキナーゼが含まれていることが多いです。その場合は、病気の診断というよりも「普段の自分の正常値を知っておく」といった数値確認の意味合いが強くなります。
ただ、クレアチンキナーゼは筋肉障害を伴う疾患の疑いがある場合が多いです。そのため、クレアチンキナーゼの数値を見ることで、どの程度筋肉がダメージを受けているのかを想定することができます。
また、心筋梗塞の場合、心筋の損傷の程度や時間経過を把握するのに非常に役立ちます。これは、クレアチンキナーゼが他の酵素よりもいち早く上昇し、正常化するという性質を持っているためです。
心筋梗塞の前兆についてはこちらを参考にして下さい。
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クレアチンキナーゼの基準値はコレ
クレアチンキナーゼは女性より男性の方が高い
クレアチンキナーゼの基準値は医療機関によって若干の変動はありますが、男性は40~200IU/L、女性は30~120IU/Lとなっています。
クレアチンキナーゼは筋肉量に比例します。一般的に男性の方が女性よりも筋肉量が多いため、男性の基準値がやや高めに設定されています。
なお、ここで示した基準値は比色法(クレアチンリン酸と酵素に反応する試薬と比色計を使用)という方法で測定した場合の数値(活性値)です。
比色法の他にもUV法などの測定方法があるため、複数の医療機関で数値を比較する場合は測定方法に注意しましょう。
クレアチンキナーゼは病気以外の要因でも上昇する
クレアチンキナーゼは次のような要因でも上昇します。激しい運動や打撲、筋肉注射、血管に注射する検査、筋電図検査などが挙げられます。
これらを行うことで、筋肉中から血液中にクレアチンキナーゼが漏れてしまうからです。およそ24時間で血中濃度はピークになり、3~4日程度で正常化しますので、運動後に検査する際は注意が必要です。
また、女性は朝から夕方頃、妊娠後期や出産前後でも上昇します。さらに、大泣きしている子供の場合も上昇してしまうことがあります。
クレアチンキナーゼ値が高い!こんな病気に要注意
ここではクレアチンキナーゼが高くなる疾患、疾患がなくても高くなるのはどんなときかということを述べていきます。
CK-MMが高くなるのは筋肉に関係した病気の疑い
CK-MMは骨格筋に多く存在するため、数値が高くなる場合は筋ジストロフィー(徐々に筋力が低下する遺伝性疾患です)、多発性筋炎(膠原病の一種で大きな筋肉から左右非対称に筋力低下が起きます)などの筋疾患が疑われます。
この他にも挫滅症候群、てんかんなどによる痙攣発作でもCK-MMは上昇します。
挫滅症候群とはクラッシュ症候群とも言い、長時間身体が重い物の下敷きになって取り除かれた後、壊れた筋組織からCK-MMが血液中に急激に漏れ出ることによって起こります。
痙攣発作時も同様で、痙攣が起こることによって筋組織が壊れてCK-MMが高くなります。
特別な病気がなくても、フルマラソンのように激しく消耗するようなスポーツを行うと筋肉に相当な負担となるため、壊れた筋組織からCK-MMが漏れ出て血液中のCK-MMが高くなります。
CK-MBが高くなるのは心臓に関係した病気の疑い
CK-MBは心筋に多く存在するため、数値が高くなる場合は急性心筋梗塞、心筋炎(心筋に炎症が起こることで、心臓のポンプ機能の低下や不整脈が起こります)、狭心症などの心疾患が疑われます。
特に「胸が苦しくなる」という症状が共通している心筋梗塞と狭心症については、どちらの疾患かを判断するため、狭心症であれば心電図、心臓超音波検査、心筋シンチグラフィーなどの検査を追加して診断します。
また、「見出し3」でも少し触れましたが、CK-MBは急性心筋梗塞の際に特異的に上昇するため、医療の現場では重要視されている検査項目です。
CK-MBの他にも、最近ではトロポニンという心筋を構成するタンパク質がCK-MBよりも心筋梗塞で特異的に上昇し始め、長く血液中から検出できるという性質を持っていることが分かり、検査で用いられることが増えています。
CK-BBが高くなるのは脳に関係した病気の疑い
CK-BBは平滑筋や脳に多く存在するため、数値が高くなる場合は脳梗塞、脳外傷などの脳疾患、悪性腫瘍(がん)が疑われます。
ですが、これらの疾患を診断するためには、その他の検査も行って総合的に判断することがほとんどです。
その他にもクレアチンキナーゼが高いときに注意したい病気
以上のような疾患が特定できないときは甲状腺機能低下症というホルモン異常によって起こる病気の可能性があります。この場合も脳梗塞や悪性腫瘍と同様、クレアチンキナーゼ以外の検査項目も行って診断します。
クレアチンキナーゼが高くなる疾患には様々なものがあるということが分かったかと思います。もしクレアチンキナーゼの軽度上昇が見られる場合は、筋電図検査、組織生検などの検査を行って総合的に診断していきます。
薬の副作用でもクレアチンキナーゼは高くなる
実は薬の副作用としてもクレアチンキナーゼの低下が起こる可能性があります。脂質異常症の治療薬やニューキノロン系という種類の抗生物質の重大な副作用の一つに横紋筋融解症というものがあります。
横紋筋融解症とは、横紋筋という種類の筋肉が溶けてクレアチンキナーゼが血液中に出るために起こります。ふくらはぎの筋肉痛や筋力低下が主な症状です。
脂質異常症についてはこちらを参考にして下さい。
【関連記事】
脂質異常症の症状や6つの原因【この食事方法がポイント】
クレアチンキナーゼ値が低いのもトラブルの元
一方でクレアチンキナーゼが低すぎるのも問題があり、疾患の可能性があります。ここではどのような疾患があるのか述べていきます。
クレアチンキナーゼが低くなる病気
クレアチンキナーゼが低くなる疾患としては甲状腺機能亢進症、結合織疾患、高ビリルビン血症、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、関節リウマチなどがあります。
聞きなれない疾患が多いかと思いますが、結合織疾患、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群は難病指定されている疾患です。どの疾患もクレアチンキナーゼだけでなく様々な検査から総合的に診断します。
甲状腺機能亢進症についてはこちらを参考にして下さい。
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病気でなくとも起こりうるクレアチンキナーゼの低下
激しい運動や筋肉注射など特に疾患がなくてもクレアチンキナーゼが高くなるということはこれまで述べました。しかし、クレアチンキナーゼの低下もまた特別な疾患がなくても起こります。
代表的なものは長期臥床、つまり寝たきり期間が長くなることによって全身の筋力が低下した状態です。クレアチンキナーゼは筋肉量に比例するため、全身の筋力低下はクレアチンキナーゼの低下につながります。
寝たきりでなくとも高齢、運動不足などによって筋力が低下するとクレアチンキナーゼの低下が見られます。
また、妊娠(後期以外)によってもクレアチンキナーゼの低下が見られることがありますが、経過観察で良いことがほとんどです。
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