眠れる森の美女症候群の原因とは【食事やトイレはどうしてるの?】
<監修医師 まっちゃん>
「眠れる森の美女症候群」という病気があることをご存知ですか。
童話やおとぎ話のようなメルヘンな名前がついていますが、発症すると社会生活はおろか、日常生活も満足に送れなくなってしまうのです。
今回は眠れる森の美女症候群について見ていきましょう。
気になる所から確認してみよう
眠れる森の美女症候群とは
眠れる森の美女症候群は正式名称:クライン・レビン症候群といいます。
睡眠障害の中では過眠症に分類される病気になりますが、特徴的なものは過眠症が長期的な周期で反復して出現する点です。
日中の活動が困難になるほどの強い眠気が数日から数週間に渡って出現し、寛解と発作を数か月から数年にわたって繰り返します。
そのため、発症した人は社会生活が困難になり、仕事や日常生活に支障が生じる場合が殆どです。
しかし、日本人では大変稀な病気のために、この症候群と診断されることは難しく、症状が続くことにより初めてこの病気と診断されることが多いです。
以前は思春期の男性のみに見られる病気でしたが、近年になって女性での症例報告がみられるようになり、童話の眠り姫からとって「眠れる森の美女症候群」と呼ばれるようになりました。
その症状は、傾眠期の間は意識が朦朧とし、気が付くとすぐに眠りに落ちてしまいます。1日16時間以上眠っている事もあります。
ナルコレプシーとは似て非なるもの
ナルコレプシーは日中の耐え難い眠気を症状とする睡眠障害です。いくら前夜によく眠ったとしても、毎日のように日中の眠気が襲ってきます。
この「いくら寝ても日中に強い眠気が出現する」という点では、ナルコレプシーとクライン・レビン症候群は似たような睡眠障害かもしれません。
しかしナルコレプシーでは居眠りや昼寝を挟むことで強い眠気は消失し、頭をすっきりと覚醒させることができます。
一方クライン・レビン症候群はというと、途中で昼寝をしたとしても日中の強い眠気をなくすことはできません。その昼夜を問わない強い眠気は社会生活に強度の障害をもたらす程です。
またナルコレプシーとクライン・レビン症候群では、症状に細かな違いがあります。以下にその違いをあげました。
ナルコレプシー
好発年齢は思春期で成人してからの発症は稀です。特に世界的にも日本人に多い睡眠障害と言われており、日本人の600人に1人はナルコレプシーではないかと考えられています。
最新の研究結果により遺伝子的な要因が関係するとわかりました。以下はナルコレプシーに特徴的な症状です。
✅ 睡眠発作…前夜にいくら寝ても日中の強い眠気が毎日繰り返される、途中で居眠りや昼寝を挟むとすっきりするが、数時間すると再度強い眠気を感じる
✅ 情動脱力発作…強い感情の動き(怒る、大笑い、驚く等)が起こると全身の脱力が起こるため、いきなり床に倒れ込んでしまう人もいる。数秒から数分続くこともある。
✅ 入眠時幻覚睡眠麻痺…眠りに落ちる直前に幻覚、幻聴、金縛りといった症状を引き起こす。
上記の症状が数か月に渡って毎日続くことがあります。
ナルコレプシーでは緊張を要する場面でも突然眠くなります。例としては試験中や友人との談笑中、車の運転などの場面です。
健常人が眠気を感じる場面ではより強い眠気に襲われます。
そのため、精神的にも辛く患者さんの中には、外出や人と会うのが恐怖になってしまう人も多く、他の問題(引きこもりや対面恐怖症など)を引き起こす場合もあります。
クライン・レビン症候群
好発年齢は10~20代で成人すると治癒することが多く、男女比は2:1となっています。以下は現在わかっている症状になります。
✅ 反復する過眠…数日から長くて3か月程度の傾眠傾向になる。1日16時間を越えて眠気が続く。起きている間も覚醒しているとはいいがたく、本人も覚えていない。
意識がもうろうとなる意識障害も引き起こしているため、周りの人には、突然気絶したかのように見えます。
✅ 行動異常…発症初期では性格の変化が起こります。無気力状態や幼児のような行動をすることもあります。
睡眠発作が起こると傾眠傾向が続きますが、食事やトイレの時は起きて自力で行えます。しかしこの時に食欲亢進や性欲亢進、常識の欠如などの行動異常を示します。
原因は不明?考えられるきっかけとは
クライン・レビン症候群のはっきりとした原因は未だ解明されていません。
というのも、全世界でも症例が極端に少なく、発症者の遺伝子的特徴や環境の関連性を調査することが難しくなっているからです。
一説には睡眠を司る視床下部や間脳の働きに障害が発生することで、異常な睡眠欲を起こしているのではないかと考えられているようですが、裏付ける研究結果などは出ていません。
発症する原因については諸説あり、風邪などの発熱によるもの、心身疲労、過度のストレス、深酒、頭の怪我、麻酔などで発症したという報告もあります。
日本人の患者数が把握できないのはなぜ
世界的に症例数が少ないクライン・レビン症候群ですが、日本では症例報告があまりありません。
では日本人はクライン・レビン症候群を患う人が少ないのか?というとそうではなく、寝坊や遅刻を恥だと考える文化のため、病院や会社、学校に報告する人が少ないのではないかと考えられています。
また、的確に診断できる診断マニュアルもないため、医師による診断が難しいということもあります。
元々、アジア人は欧米人に比べると心の安定に関するセロトニンというホルモンが少ない傾向にあります。
その中でも日本人は特にこのセロトニンの量が低いため、不安を感じやすく、鬱や睡眠障害を起こしやすいと言えるのです。
このため睡眠障害や精神病全般の症例報告は欧米人よりも多い傾向にありますが、クライン・レビン症候群のようなレアケースでは社会での認知度が低いため、周囲の理解や協力が得られにくいと考えられます。
このような観点から、病院受診する人が少なく、潜在的な患者数は多いのではないかと予想する声もあります。
眠り続けていると食事やトイレはどうしているの
では実際にクライン・レビン症候群を患っている人は、日常生活をどのように送っているのでしょうか。報告された症例から類似する行動を抜粋していくと以下のようになります。
✅ 10代で発症し数か月から数年で治る事が多い
✅ 傾眠期(数日~数週間)と寛解期間(数週間)を繰り返す ✅ 1日の大半を寝て過ごしているため(16~22時間)、家族の介護や協力が必要不可欠 ✅ トイレや食事の時は起きるが、その後すぐに寝てしまう ✅ 起きている間も覚醒していると言えず、本人も覚えていない ✅ 寝返りは自力で行えるため、床ずれなどの心配はない |
上記の特徴がみられます。
傾眠期に一時的に起きる事はありますが、本人の意識は覚醒していません。
傾眠期には行動異常を伴う事が多く、幼児退行を起こしている事例では手づかみで食事をする様子や極端な食欲から過食などの異常行動を伴うことがあります。
また中には睡眠発作中に犯罪を起こしてしまったケースもあったようです。
しかしこれらの異常行動は本人が意図して起こしているわけではありません。覚醒しているように見える間も、脳波は睡眠状態を表しており本人は全く覚えていないのです。
眠れる森の美女症候群に治療法はあるのか
残念ながら治療法は確立されていません。中には何もせずとも自然治癒する報告も多数あるため、積極的な治療が行われていないケースもあります。
現在、主に行われている治療は薬物治療がメインになります。
治療薬としては、中枢神経を活性化させる塩酸メチルフェニデートや塩酸アンフェタミン、気分安定を図る炭酸リチウム製剤(リーマス錠)を症状に合わせて処方していく事になります。
クライン・レビン症候群の治療の中で、特に重要なのは家族の協力と周囲の理解です。前述した通り、クライン・レビン症候群は1日のほとんどを寝て過ごします。
覚醒しているように見える時間も夢遊病のように過ごしてしまうため、その行動には危険が伴います。
特に食事の時は目の前にある食物を何も考えず口に運ぶ動作があるため、生食に適さない物でも関係なく口に運ぶことがあります。
また、食事やトイレなどの生理的欲求は自力で行えますが、室温や環境の調整、清潔動作、社会活動の補助(学校や職場への届け出)は全て介護者が行わなければならないでしょう。
クライン・レビン症候群はまだまだ社会的な認知がほとんどない状態です。このため周囲に理解を得られにくく、本人や家族には多大な負担が起こると考えられます。
もし病気や介護で辛いと感じたら、睡眠障害専門の関係機関にサポートを依頼することも一つの方法です。
今後は治療法の確立と、患者を取り巻く社会的なサポート向上が必要といえるでしょう。
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