肺アスペルギルス症の治療法まとめ【手術や薬について解説します】
<監修医師 ドクターTST>
肺アスペルギルス症は免疫力が弱まった人に多く発症する病気で、看護に携わる業務の方は勤務先で遭遇しやすい病気です。
しかし実は原因となる病原菌は身近なところに潜んでいるため、免疫力が低下した人以外にも警戒が必要な病気です。
そこで今回は、肺アスペルギルス症の治療法についてのまとめを、その症状や特徴を含めて解説します。手術や薬について事前に知っておけば、治療にも戸惑わずに済みますよ。
肺アスペルギルス症とは?
まずは肺アスペルギルスとはどのような病気かを解説します。
肺アスペルギルス症の原因
肺アスペルギルス症とは、アスペルギルスという名称の糸状真菌(カビの一種)に感染・発症することで引き起こされる肺の病気です。
カビの一種ですので、不衛生で湿潤な環境を好んで増殖します。人体に侵入すると、アスペルギルスの影響により肺や副鼻腔内の血管内にかたまりや白血球や菌が詰まった塊が発生します。
原因となるアスペルギルス自体は身近に存在する真菌で、通気口や堆肥の中の空気に主に存在します。
症状や持病の有無により「肺アスペルギローマ」「侵襲性肺アスペルギルス症」「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」などに分類されます。
最も発症確率が高いのが「肺アスペルギローマ」で、過去に肺の病気に罹患した際に出来た体内の空洞や副鼻腔に発生します。
中でも慢性壊死性肺アスペルギルス(CNPA)は組織侵襲があり、急激に病巣が肺全体に拡大していくので注意が必要です。
「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」も喘息などの呼吸器の持病を持つ人に多く見られる症状で、気道の粘膜にアスペルギルスがコロニーを形成することで慢性的にアレルギーを引き起こす症状です。
「侵襲性肺アスペルギルス症」(IPA)は非常に稀ではありますが、血流に乗ってアスペルギルスが猛烈な勢いで侵攻し、肺以外の器官(肝臓・腎臓・脳・心臓など)にまで感染を引き起こす症状です。主に免疫力が低下している人が発症しやすくなります。
肺アスペルギルス症の特徴
アスペルギルスは健常な人感染しても発症には至らない菌ですが、肺疾患やアレルギーを患っていたり、そもそも免疫力低下の状態で感染すると発症に至る病気です。
自覚症状がないまま発症する人もいれば、血が混じった咳が出たり体重減少、呼吸困難などが起こります。
また別の治療の免疫抑制中に発症しやすいのも特徴です。
特に「侵襲性肺アスペルギルス症」は臓器移植に必要不可欠な免疫抑制剤の投与や、血液に発症する悪性腫瘍に対抗するための抗がん化学療法、膠原病の治療に大量のステロイド剤を投与した際の副作用として発症しやすい病気です。
近年の病気治療には免疫抑制薬とステロイド剤が頻繁に使用されており、これらの治療全般が原因となり急増してきた新たな病気が肺アスペルギルス症とも言えます。
肺アスペルギルス症の検査方法
症状から医師により「肺アスペルギルス症の疑い有り」と診断されると、X線検査やCT検査を用い感染の疑われる部位(主に肺)の検査を行い総合的に判断を下します。
また内視鏡を用いて副鼻腔や肺から感染の疑われる組織を採取し、培養(増殖)して真菌の種類を特定する血清診断が行われることもあります。
検査方法についてはこちらも参考にして下さい。
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肺アスペルギルス症の症状
肺アスペルギルス症は特徴的な症状が発生します。これらの症状とX線などの肺の撮影により原因を特定します。
どのような症状が出るのかを解説しますので、「該当している」と感じる項目が多い場合は早めに医療機関を受診しましょう。
咳や痰
突然発熱した後に、喀血混じりの咳や血痰が出ることがあります。
喀血についてはこちらを参考にして下さい。
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胸痛・呼吸困難・発熱
急激に肺アスペルギルス症が進行すると、咳や痰に混じって胸痛・呼吸困難・発熱といった症状が出ます。これらの症状が複合的に出た場合は速やかに医療機関を受診しましょう。
特に呼吸困難は突発的に始まりそのまま死に至るケースもありますので注意が必要です。
せん妄
せん妄とは意識障害により幻覚や自覚のない大声など意識の混乱に伴い引き起こされる行動です。
肺アスペルギルス症は肺だけではなく脳にまで影響を与えることがあり、脳へのダメージが原因でせん妄が起きます。
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肺アスペルギルス症の治療法
基本的に肺アスペルギルス症は感染しても発症までに至ることは少なく、1箇所だけに症状が出ている場合は進行も遅いので急いで治療を行う必要性はありません。
ただし複合的な症状や複数の体内の器官に症状が出ている場合は急速に症状が悪化する恐れがありますので速やかに治療を行います。
どのような治療方法が有効かを解説します。
抗真菌薬の服用
まずは原因となる真菌のアスペルギルスを駆除する抗真菌薬を服用することで治療を行います。主に使用される抗真菌薬はアムホテリシンBやミカファンギン、ボリコナゾールです。
ボリコナゾールは注射で接種して効果を発揮するのは肺アスペルギルス症の初期段階であり、約2週間ほどの投与が必要です。
病状の経過次第では経口投与を行う場合もあります。ミカファンギンは点滴で静脈に静注します。
ただし中には耐性のある真菌もありますので、その場合は比較的新しく登場し、まだ真菌が耐性を獲得していないカスポファンギンを利用します。
またアレルギー性の肺アスペルギルス症の場合、ステロイドが処方される事もあります。
手術で除去
副鼻腔や肺に溜まった真菌のかたまりは外科的切除が必要なので、手術を行います。
特に肺の血管の近くに発生したかたまりは血管内に真菌が侵入する恐れがあります。血管に侵入すると血流に乗って全身に感染が広がるリスクが高いので、早期に手術を行い除去する必要があります。
肺アスペルギルス症の治療法を中心に、どのような病気かを解説しました。
医療技術の進歩と新たな病気の発見は日進月歩です。新たな治療方法が別の病気を生む可能性もあります。
ただし対応を間違わなければ影響を残さずに治療で病気を克服する事が出来ますので、「肺アスペルギルス症かな?」と疑わしい症状が出たら、すぐに医療機関を受診しましょう。
早めに手を打つことで、早期に治療を開始し完治は出来なくとも症状を抑えることは出来ます。
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