食後の動悸に自律神経が関係している?【原因や症状を解説】
<監修医師 まっちゃん>
皆さんは食後に心臓がドキドキするという経験をしたことがあるでしょうか。実はその背後には、自律神経の乱れや様々な病気が隠れている可能性があります。
今回は食後に動悸が起こるメカニズム、自律神経との関係性などを説明した後、対策方法についても紹介していきます。
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動悸がするとはどんな状態か
私たちは心臓の拍動を普段あまり感じることはありません。しかし、緊張や不安を感じたり、激しい運動の直後などは「心臓がドキドキする」という体験をしたことのある人は多いでしょう。
この心臓の拍動(ドキドキする)のことを自覚するのが動悸です。
何らかの要因によって心臓の拍動がいつもより強くなる、速くなる(頻脈)、遅くなる(徐脈)、乱れる・飛ぶ(不整脈)という状態になると、動悸として感じることがあります。
動悸の起こる原因には先に挙げたような精神的な興奮や運動の他に、アルコールやカフェインの摂取によるもの、薬の副作用によるもの、病気によるものなど様々です。
心臓の病気によって動悸が現れる場合、他にも息切れ、めまい、胸痛、呼吸困難などが出ることがあります。
頻脈についてはこちらを参考にして下さい。
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食後の動悸が起こるメカニズム~消化・吸収と自律神経~
通常、食事をするときは胃腸の働きをコントロールする、交感神経よりも副交感神経が優位になります。
副交感神経は胃腸の働きを活発にしたり、唾液や胃酸などの消化液の分泌を増やす働きがあり、食物の消化・吸収を促進します。このとき、消化・吸収のために全身の血液が胃腸に集まります。
その一方で、副交感神経優位の状態では、心拍数は減り、心筋の収縮力も弱くなり、末梢血管は拡張して血圧が低下します。このままでは心臓に出入りする血液量が減り、血圧が低下してしまいます。
そこで、交感神経が働いて心拍数を増やし、心筋の収縮力を高め、抹消血管を収縮させて、血圧を上昇・維持しようとします。
通常、副交感神経による心拍数の低下、交感神経による心拍数の上昇は緩やかに行われ、動悸など不快な症状を伴うことはありません。
しかし、何らかの原因によって副交感神経と交感神経の働きが乱れることにより、急激な心拍数の変化が起こり、動悸が生じると考えられています。
※自分の意志とは関係なく働く末梢神経のことを自律神経と言います。自律神経には興奮時に優位になる交感神経と、リラックス時に優位になる副交感神経があります。
食後の動悸と自律神経の関係性~繰り返す血糖値の乱高下と自律神経~
私たちは食事をすると必ず血糖値が上がります。
健康な人であれば、血糖値は緩やかに上昇(140㎎/dl未満)するため、血糖値を下げる働きをするインスリンというホルモンが一定量分泌され、血糖値が正常範囲(70~100㎎/dl)まで下がります。
しかし、何らかの原因によって、穏やかな血糖コントロールが行われず、血糖値が乱高下してしまうことがあります。
まず、食後に急激な血糖値の上昇が見られ(140㎎/dl以上)ます。これに対し、正常範囲まで血糖値を戻すためにインスリンが過剰分泌されてしまい、血糖値が急降下し、ときには低血糖状態(70㎎/dl未満)となります。
低血糖症状の初期には交感神経症状(空腹感、不安感、手指の震え、冷や汗、動悸、吐き気、生あくび、倦怠感など)が現れ、進行すると中枢神経症状(頭痛、顔面蒼白、めまい、目のかすみ、集中力の低下、動作が緩慢になるなど)が現れます。
つまり、食後インスリンが過剰分泌された結果、低血糖状態となり、その症状の一つとして動悸が出現することがあります。
また、血糖値を上げる際には交感神経が優位となり、血糖値を下げる際には副交感神経が優位となって血糖値をコントロールしています。
上記のような血糖値の乱高下が繰り返されていると、徐々に交感神経も副交感神経も疲弊し、結果として自律神経のバランスが乱れ、動悸などの自律神経失調症状につながります。
自律神経失調症状についてはこちらを参考にして下さい。
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自律神経失調症の症状チェック!5つの原因も解説!
食後の動悸は病気が隠れている可能性がある
食後低血圧
食後の収縮期血圧(最高血圧)が食前に比べて20mmHg以上低下するものを食後低血圧と言います。
めまいやふらつき、立ちくらみ、動悸などの症状が食後30分から1時間後に出現し、時間の経過とともに血圧は戻ります。
見出し2で説明したように、食後の消化・吸収のために副交感神経が優位になった際、心拍数の低下や血圧の低下が起こります。
本体であれば交感神経ともバランスをとって血圧が下がりすぎるということはありませんが、なんらかの原因により血圧の調節が上手く行かなくなると、食後低血圧を招きます。
自律神経の調節機能が低下している人、血圧を下げる薬を飲んでいる人、糖尿病などの持病のある人は食後低血圧が起こりやすいと言われています。
低血糖症
見出し3で説明したように、食後に血糖値が急上昇すると、インスリンが過剰分泌されて低血糖状態になることがあります。低血糖症状の一つに動悸があります。
低血糖による症状についてはこちらを参考にして下さい。
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バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
バセドウ病とは甲状腺から分泌されるホルモンが過剰になるために起こる病気です。症状には甲状腺が腫れる、発汗、体重減少、動悸、手指の震えなどがあります。内分泌内科や内科で専門医による治療を受けましょう。
精神疾患
うつ病やパニック障害などの精神疾患の症状の一つとして動悸が現れることがあります。交感神経が過度に興奮し、自律神経の調節が上手く行われないことによって起こるとされています。
心疾患
狭心症や不整脈などの心臓の病気があると症状の一つとして動悸が現れることがあります。
命に関わる病気の可能性もあるため、一度循環器内科などで心電図検査を始め詳しい検査を受けることをお勧めします。
心電図についてくわしくはこちらを見て参考にして下さい。
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心電図を読んで異常や原因を発見!【心電図の種類も紹介!】
食物アレルギー
食物によってアレルギー反応が起こった場合、かゆみ、蕁麻疹、気分が悪くなる(悪心)、呼吸困難、のどの違和感、頻脈、血圧低下など様々な症状が出ます。
これらの症状が食直後(通常食後30分以内)に出るものを即時型の食物アレルギーと言います。
これに対して即時型よりも症状の出現が遅く(通常食後数時間から数日後)、症状の程度も軽いものを遅延型の食物アレルギーと言います。
遅延型の食物アレルギーの症状は、頭痛、めまい、動悸、不整脈、消化不良、腹部膨満(お腹が張る)、抑うつ気分、感情の起伏が激しい、肌荒れ、慢性疲労など多岐に渡ります。
自分がどの食品にどの程度アレルギーを持っているかというのは、血液検査をすることで分かります。
食べ過ぎによる内臓圧迫
食事を摂ると胃は膨張します。食べ過ぎるとパンパンの状態まで膨らみ、周囲の臓器や血管などを圧迫して血流が悪くなるため、心拍数が上がり、動悸の原因になるのではないかと考えられています。
妊婦さんは食後の動悸に要注意!~妊娠貧血と動悸~
貧血とは血液量が減ったり、血液中の赤血球が減ることで全身に酸素が十分に運ばれなくなる状態です。すると全身の臓器が酸素不足に陥ります。
例えば脳が酸素不足になると、めまい、立ちくらみ、失神などが起こり、心臓が酸素不足になると、息切れ、動悸、息苦しさなどが起こります。妊娠すると週数が進むにつれて貧血症状が重くなりやすいため、注意しましょう。
脳貧血についてはこちらを参考にして下さい。
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脳貧血の症状チェック!【意外な原因はコレなんです!】
※妊娠貧血とは「ヘモグロビンが11g/dl未満またはヘマトクリットが33%未満」である場合を言います。
ヘモグロビンとは赤血球の主成分です。ヘマトクリットとは血液全体(血球+血漿(けっしょう))に占める血球成分です。
妊娠すると胎児に血液を介して栄養や酸素を送らなければならないため、通常よりも多くの血液が必要となり、血液量が増えます。(ここで、血液中の固体成分の一つを赤血球、液体成分を血漿とします。)
妊婦さんは赤血球(固体)の増加量よりも血漿(液体)の増加量が多いため、血液量そのものは増えても濃度が薄くなります。このように濃度が薄くなると、ヘマトクリットもヘモグロビンも減ってしまうのです。
さらに、ヘモグロビンを作るためには鉄分が必要となります。妊娠時は通常よりも鉄分の需要が高まって消費するため、結果として体内の鉄分は不足し鉄欠乏性貧血を招きます。
妊娠貧血を予防・改善するためには、鉄分やタンパク質を摂取するようにしましょう。
食後の動悸の7つの対策
食事療法
1. ゆっくり時間をかけて食事する
早食いをすると食後の血糖値が急上昇しやすく、食後の動悸につながる可能性があります。
特にごはん、パン、麺類、果物、じゃがいもなどは糖類を多く含むため他のメニューよりもゆっくり食べる、咀嚼回数を多くするなど工夫しましょう。
2. 食べる順番に注意する
食物繊維を豊富に含む野菜や海藻類などを先に食べると、糖類の吸収を穏やかにするため、血糖値の上昇が緩やかになります。メニューの中では最初に食べることをお勧めします。
次に肉・魚、豆類などのタンパク質を食べると、腸からインクレチンという物質が分泌されてインスリンの働きを高めてくれます。そのため、炭水化物よりも前にタンパク質を食べると良いでしょう。
3. カフェインの摂取を控える
コーヒーや紅茶、栄養ドリンクなどに含まれるカフェインは眠気を覚ましたり、一時的に疲れを取るために摂られている人も多いと思います。
このカフェインは交感神経を刺激し、ノルアドレナリンの分泌を促します。食後に動悸がするという場合、自律神経や全身の各臓器が疲れていることも考えられるため、自律神経や各臓器の調子を整えるために、カフェインの摂取量を減らすことも有効です。
運動療法
自律神経の働きを整えるためには散歩やウォーキング、自転車をこぐ、ヨガ、ストレッチなどの激しくない運動が有効です。
できるだけ毎日続けることで、一日の心身の疲れや凝りをほぐしてくれます。まったく運動習慣のない人や仕事が忙しい人は、運動を取り入れるのが億劫なものです。
そこで、次に述べる呼吸法を行いながら、就寝前に軽いストレッチをすることから始めてみましょう。
また「4秒かけて鼻から息を吸い込み、4秒間呼吸を止め、8秒かけて口からゆっくり吐き出す」という呼吸法は副交感神経の働きを高めます。この呼吸法を就寝前に2~4回行うことで眠りの質を高めてくれます。
休養
睡眠不足は体にストレスとなり、自律神経を乱す原因となるため、しっかり睡眠を取ることが大切です。
布団に入る直前(30分前)は心身をリラックスさせるために、テレビ、読書、スマホの使用はできるだけ控えるのが良いでしょう。
睡眠の質を高めるコツについてはこちらを参考にして下さい。
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自律神経を整えるツボを押す
自律神経の働きを整える効果があるとされているツボがいくつかあります。労宮(ろうきゅう)は手のひらのほぼ真ん中にあるツボで、交感神経の興奮を沈めて、不眠の解消などにも効果があります。
親指で「痛気持ちいい」という程度に刺激しましょう。(足の裏のほぼ中央にある心包区(しんぽうく)も労宮と同様の効果があります。)
また、指間穴(しかんけつ)は手の指と指の間(手の甲側)にあるツボで、冷え性改善の効果もあります。
親指と人差し指で挟んで刺激しましょう。(足の指と指の間にあるツボを八風(はっぷう)と言い、指間穴と同様の効果があります。)
食物アレルギーの原因物質(アレルゲン)を特定する
見出し4に説明したような食物アレルギー(特に遅延性アレルギー)があると、動悸を始め様々な心身の不調を来たします。
不調が長引き、原因が特定できていない場合は、一度アレルギー検査を受けるのも方法の一つです。
アルコールを控える
アルコールには中枢神経の働きを抑制(脳を鎮静化)する作用があります。そのため、ストレス解消法の一つとして、またリラックスするために適量を摂取(1日1合程度)する分には良いものです。
しかし、過剰摂取は体にとって負荷(ストレス)となってしまいます。疲れているときほど、飲酒は適量に留めるのがベストです。
たばこを止める
タバコにはニコチンという物質が含まれています。ニコチンは脳に作用し、アセチルコリンという神経伝達物質の分泌を促します。
アセチルコリンは副交感神経の働きを活発にします。つまり、喫煙によって一時的で偽物のリラックス効果が得られるということです。
しかし、体内のニコチン濃度が低下すると、アセチルコリンが分泌されなくなるため、自律神経のバランスが乱れることになります。
禁煙すると一時的に自律神経が乱れてしまいますが、長期的にみれば禁煙するメリットが大きいと言えます。
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