腹腔動脈解離の症状まとめ【12の原因や治療法を丁寧に解説します】
<監修医師 春田 萌>
「腹腔動脈解離」という病気を知っていますか?聞いたことがあるような、ないようなこの病気。実は「突然死」を招く場合もある恐ろしい疾患なんです。
そこで今回は聞きなれない「腹腔動脈解離」の症状は?予防するにはどうしたらいい?治療法は?などを詳しく紹介します。
腹腔動脈解離とは?
腹腔動脈解離なんて恐ろしい名前の病気ですが、一体どのような病気なのでしょうか?腹腔動脈とは大動脈から分岐して肝臓・胃・膵臓・脾臓などの器官に血液を供給している血管の事を指します。
大動脈は3層構造で成り立っているのですが、何らかの異常が起き真ん中の層である膜(中膜)に血流が流れ込み大動脈壁内腔が解離(剝がれてしまう)してしまう疾患です。
突然発症することが多く、クモ膜下出血のような特異的な激痛が走り、その痛みは「ナイフで引き裂かれる様な痛み」と表現されるほどで「急性大動脈解離」と呼ばれます。
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適切な診断を受けることが最重要で「心臓血管外科」や「循環器科」での診療が必要になります。治療しないでおけば「2週間で75%が死に至る」緊急性の高いものです。突然死では心筋梗塞に次いで2番目に多い死因とされています。
原因は不明ですが、動脈硬化や高血圧が関係しているといわれています。指定難病であるマルファン症候群などの大動脈の中膜が弱い先天性の疾患との関係性も高いといわれています。
中膜に入りこんだ血液が通常流れる場所でないところに新たな血液の流れ(解離腔または偽腔)を作ることによって血管が膨張した状態を「大動脈解離」といいます。
この時、外側には外膜一枚しかないため破裂の危険性が高くなります。解離の場所によってスタンフォードA型、スタンフォードB型に分けられます。
発症から2週間以内を「急性期」、それを過ぎると「慢性期」と分類されます。高齢者の場合、発症時期が不明なものもあるようです。この疾患は、治療を受けた場合と受けなかった場合で生存率が大きく変わります。
スタンフォードA型の場合70%、スタンフォードB型の人は90%が生存し、日常生活に戻れます。
腹腔動脈解離の原因
主原因は高血圧
腹腔動脈解離の原因は「高血圧」であること以外、確かなことが分かっていません。高血圧になると血管に強い圧力がかかるため、血管が膨張してしまいます。この無理な状態が長期間続くことで血管壁に異常が生じます。
特に大動脈は左心室から送られる血流を直接受ける場所であるため、最も負荷がかかってしまいます。急性大動脈解離の患者さんの約7割が高血圧症と言われていて、未だに詳しい原因が分かっていないこの疾患において「高血圧」が唯一の原因であると考えられています。
*高血圧の原因*
塩分過剰摂取・加齢による血管の老化・過労・ストレス・運動不足・肥満・遺伝的要素、など
高血圧は若い人も発症することがあります。くわしくはこちらを見て参考にして下さい。
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高血圧がもたらす「動脈硬化」
高血圧を治療せず、生活習慣の改善なども行わないまま放置することで「動脈硬化」が起こります。動脈硬化とは、動脈内にコレステロールや中性脂肪が溜まることで、血管の持つ柔軟性が失われ、血液の循環機能が正常に機能しなくなることをいいます。
そうすると血液が行き渡らないため、脳や心臓などの重要な器官が酸素不足に陥ってしまいます。これらは心臓への負担が大きく、動脈解離の他にも「心筋梗塞」や「狭心症」を引き起こす原因となります。
また血管の老化である動脈硬化が大動脈瘤を引き起こす原因になるともいわれています。
*動脈硬化の原因*
高血圧・高脂血症・糖尿病・肥満・喫煙・運動不足・アルコール・加齢・ストレスなど
動脈硬化は「血管の老化」と言われているため、加齢とともに進行していきます。そのため40代頃から症状が現れることが多く、少しずつ生活習慣を見直すことが必要と言えます。
その他の原因
高血圧以外の原因が分かっていない「腹腔動脈解離」ですが、その他は本当に原因不明なのでしょうか?近年、以下の病気・症状がある人に発症率が高いことが分かってきました。
✅マルファン症候群・・・常染色体優性遺伝症であり、約75%が両親のどちらかが罹患、約25%が突然変異で起こります。全身の結合組織が脆弱になる遺伝性疾患です。
✅エーラス・ダンロス症候群・・・皮膚・関節・血管などの全身的な結合組織の脆弱性に基づく遺伝性疾患です。
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✅上行大動脈拡大 (特に大動脈二尖弁に合併したもの)・・・通常3枚ある大動脈弁が生まれつき2枚しかない先天性心臓弁膜症による弁欠損です。。二尖大動脈弁の患者さんが大動脈解離を発症する確率は通常の5~10倍と言われています。
✅巨細胞性動脈炎・・・指定難病の一つで症状の一つに大動脈とその分岐点に病変を起こします。この疾患自体の原因も分かっていません。
✅ベーチェット症候群・・・指定難病の一つで慢性再発性の全身性炎症性疾患です。血管に症状が現れます。主に男性に発症が多く、これも原因は分かっていません。
✅家族性・・・家族の中でマルファン症候群などに見られる結合組織異常の罹患がある場合。
✅医原性・・・例えば医療行為の一環でカテーテルを通した時に、不可抗力によって大動脈壁に傷が付いた場合に起こります。
✅妊婦・・・妊娠中のホルモンの増加が大動脈壁に異常を起こすことで起こる場合があります。妊娠後期と出産後に多いといわれています。
✅自己免疫疾患に合併するもの・・・例えば指定難病の一つ、全身性エリテマトーデスの合併症などが挙げられます。
✅外傷性・・・高いところからの飛び降りや交通事故などによる外傷を起こした場合、大動脈に間接的衝撃が加わり原因となります。血管造影検査や手術中の事故によって起こることもあるようです。
腹腔動脈解離の症状
腹腔動脈解離はとても進行が早く、自覚症状がほとんどありません。ごく稀に症状が起きる前兆のようなものを感じる人もいるようですが、ほとんどの場合突然激痛に襲われます。
それは「ナイフで刺されたような痛み」、「引き裂かれるような痛み」などに例えられています。それ以外に現れる症状を紹介します。
✅胸や背中、腰に強烈な痛み
✅失神したりショック状態になることもある ✅意識を消失したり、意識障害が起きる ✅四肢(手足)の循環障害(しびれや痛み) ✅脳虚血症状 ✅血圧の左右差(20mmHg以上) ✅大動脈破裂症状 ✅大動脈弁閉鎖不全症の症状 |
腹腔動脈解離の合併症に注意!
致死的な合併症
大動脈に起きた解離によって分岐血管では血液が流れなくなり、様々な臓器で血流障害(虚血)が起こります。中には次のような高い死亡率に至る症状を伴うこともあるので、その場合は緊急手術を行い対応します。
✅心臓虚血症状・・・心筋梗塞・狭心症・心タンポナーデ・大動脈弁閉鎖不全
✅脳虚血症状・・・脳梗塞・脳卒中・麻痺
✅腎臓虚血症状・・・腎不全
✅腸間虚血症状・・・腸管壊死(腹痛・下血)
✅下肢虚血症状
✅脊髄麻痺
進行すると「大動脈瘤」に
解離を起こした場所が次第に膨張し拡大したものを「大動脈瘤」といいます。さらにこれが進行すると大動脈瘤は突然破裂します。破裂によって漏れ出た血液が心臓を圧迫すると、「心タンポナーデ」といって命にかかわる状態に陥ります。
腹腔動脈解離の治療法
まずは検査
✅胸部・腹部レントゲン・・・直接の診断はできないものの、胸水や心不全、心タンポナーデなどの「大動脈解離に合併」する症状を判断するのに有効です。
✅造影CT・・・大動脈解離を診断するのに必要不可欠な検査です。造影剤を使用し血液の流れを確認、大動脈の2重構造が確認できます。また破裂・心タンポナーデ・四肢の虚血などの合併症の診断にも有効です。
✅心エコー・経食道心エコー(超音波法)・・・ベッドサイドで早急に診断できるため、緊急時に有効な検査です。肝機能障害や造影剤アレルギーなどがあるため、造影CTが行えない患者さんに対しても実施できます。
✅血液検査・・・直接の診断はできないものの、出血による貧血などの判断ができます。
✅誘導心電図・・・心筋梗塞や狭心症などの判断やそれらの合併症を判断するのに有効な検査です。
✅血管造影・・・時間がかかるため、上記の検査で判断が付いた場合は行わないことが多い検査です。
✅MRI検査・・・慢性期の判断には有効です。
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内科的治療
✅血圧コントロール・・・大動脈解離の初期的治療として行います。降圧剤の投薬によって収縮期血圧100~120mmHgを目標に管理します。
✅疼痛コントロール・・・血圧コントロールと並行して行われます。大動脈解離では突き刺されるような強い痛みを胸部・背部にともなうため、血圧上昇予防のためにも行われます。
✅絶対安静・絶飲食・・・解離の進行や合併症の予防が最重要であるため、少しでも心臓に負荷がかからないようにし、血圧を安定させるため必要な処置になります。
大動脈解離では、各臓器への血流障害のため様々な症状が現れます。そのため全身の循環状態をしっかりと見ながら対応することが重要になります。
外科的治療
✅上行大動脈に解離がある場合は、内頚動脈・椎骨動脈・脳底動脈に血液が不足することから「脳死のリスク」が高まるため緊急手術が必要になります。
また大動脈破裂・心タンポナーデ・循環不全・大動脈弁閉鎖不全などを起こした場合の予後は非常に悪いといわれています。下行大動脈に解離がある場合は脳に血液を送る動脈が確保されているため保存的治療が行われます。
しかし、臓器虚血や下肢虚血などの合併症がある場合にも緊急手術が行われます。
*主な手術*
A.人工血管置換術・・・大動脈の亀裂がある部分から置換する部位を決める手術です。
✅上行大動脈に亀裂がある場合・・・上行大動脈置換術
✅弓部に亀裂がある場合・・・弓部大動脈置換術
✅下行大動脈に亀裂がある場合・・・下行大動脈置換術
B.ステントグラフト・・・合併症を伴ったり、破裂の危険性がある場合に適応される「カテーテル治療」です。亀裂をステントグラフト(金属でできたバネ)で閉じ、偽腔に流れ込む血流を遮断することで循環障害や亀裂の予防になります。
またカテーテル治療のため、開胸・開腹しなくても治療できるため治療期間の短縮も期待できます。ただし手術とカテーテル治療のどちらが良いのかは、専門医による適切な診断によって決められます。
*術後*
ゆっくりとしたリハビリを行い、社会復帰を可能にしていきます。退院後も一定期間は慎重な経過観察が必要になります。また再発予防のためにも肥満やストレスなどの生活習慣の改善に努め、食生活の見直しなども行います。
また、大動脈解離は突然起こるものですが高血圧や動脈硬化を予防することで、そのリスクは減らせます。定期的な検査も早期発見につながるので健康診断はきちんと受けることをおすすめします。
そして普段から食生活や運動などのバランスの取れた生活習慣を心掛けましょう。
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