酸塩基平衡とは【健康状態の指標をわかりやすく解説します】
<監修医師 豊田早苗>
酸性や塩基性(アルカリ性)やpHで思い浮かぶ事と言えば、リトマス紙など中学生の化学で習ったものを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
このような用語はあまり日常では馴染みのないものだと思います。実はこの酸性や塩基性のpH バランスは生命体において重要な役割を果たしており、病院などの臨床の場では医師や看護師が重要なバイタルサインとして利用しています。
今回は酸と塩基の体内での役割とそのバランスが崩れた時に起こる気を付けるべき疾患とその症状を解説します。
気になる所から確認してみよう
酸塩基平衡とは?
体内の様々な器官や臓器に含まれている水(H2O)や胃酸(HCl)などの体液の成分には水素イオン(H+)が含まれています。
水素イオン濃度の指標としてpH があります。
pHはヘンダーソンハッセルバルヒ式と呼ばれる化学的な数式によって計算され、水素濃度が高いほどpHは低くなり、7より低い場合を酸性、7より高い場合は塩基性(アルカリ性)となります。
生体内の正常範囲のpHは7.4±0.005と狭い範囲で定められており、肺や腎臓で常に調整が行われています。病気などで少しでもこの範囲を超えたり、下回ったりするとバランスが崩れ、様々な体の異常をきたします。
酸塩基平衡における肺の役割は大きい
肺は呼吸をする時に働き、酸素を取り込んで、体内で生成された二酸化炭素を排出します。
排出される二酸化炭素は血液のpH調整が行われた結果に生成したものです。
二酸化炭素は血液中では酸性の状態にあり、血液内での比率が高くなりすぎると水素濃度が高くなり、pHが酸性側に偏ってしまいます。そのため二酸化炭素を排出しなければなりません。
二酸化炭素の排出によるpH 調整には肺胞という部分が重要な役割を果たします。
肺胞は肺の袋状になっている部分のことで、ここでは肺と血液との間で二酸化炭素などのガス交換が行われます。このしくみを肺胞換気と呼びます。
肺胞が上手く血液中の二酸化炭素を取り込み、呼気中へ排出することによって血液内の酸塩基平衡は保たれるのです。
酸塩基平衡における腎臓の役割はコレ
肺が二酸化炭素を呼気中に排出しているのに対して腎臓は血液中の硫酸、硝酸、リン酸などの不揮発性酸と呼ばれるものを尿中へ排出し、血液中のpHの補正を行う役割を担っています。
硫酸や硝酸は強酸と呼ばれ、リン酸も弱酸の中では強い分類に入ります。これらはより水素イオンを放出しやすく、血液中に過剰に存在すると血液が酸性に傾きやすくなります。
これらの排出は腎臓の尿細管上皮細胞で行われ、硝酸に含まれる窒素はアンモニアとなり、塩基として水素イオンを受け取ることでアンモニウムイオンとして尿中に排泄され、尿の臭いの一部となります。
さらに腎臓には後述する緩衝系における重要な要素である重炭酸イオンを血液中へ回収する働きを持っているのです。
その他の腎臓の働きについてはこちらを参考にして下さい。
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腎臓の位置はココ!【腎機能低下の4つの原因や症状をチェック】
pH調整に欠かせない緩衝系とは
血液中の二酸化炭素は体内の水と合わさって炭酸(H2CO3)となりその後、重炭酸イオン(HCO3–)と水素イオン(H+)となります。わかりやすいように化学式を下に記しておきます。
CO2 + H2O ⇄ H2CO3 ⇄ HCO3– + H+
二酸化炭素は栄養の代謝などにより体内でどんどん自然発生してゆくため、血液における比率が増え、上記の化学式は右の方へ進行してゆきます。
その分水素イオン濃度が上昇するので血液の酸塩基平衡は酸性側に傾きすぎてしまうのです。
そこで腎臓から再吸収された重炭酸イオンを使い、弱塩基として水素イオンを捕まえさせます。すると上記の化学式は左の方へ進行してゆき、最終的には二酸化炭素と水になります。
生成した二酸化炭素は肺胞で血液中から出て呼吸の際に出てゆきます。
身体の中では絶えずこのような化学反応が起こっており、血液内のpHを一定に保つ仕組みを炭酸-重炭酸緩衝系と呼びます。
酸塩基平衡の3つの異常
血液が酸性側に傾く場合
血液が酸性側に傾けさせる病態のことをアシドーシスと呼びます。
腎不全などで腎臓の機能が十分に働かないことや、多量の出血や細菌感染によるショック状態により、乳酸が過剰に産生され肝臓の細胞が乳酸を代謝しきれなかった場合など、腎臓や肝臓の代謝の異常で生じるアシドーシスのことを代謝性アシドーシスと呼びます。
肺の障害で起こるアシドーシスを呼吸性アシドーシスと呼びます。呼吸性アシドーシスは慢性と急性のものがあり、特に急性の方は増悪型とよばれるほど注意が必要なアシドーシスです。
肺が障害される原因としては肺の病気による呼吸数の減少や、二酸化炭素の排出量が十分でないといった呼吸量の減少があげられます。
代謝性アシドーシスについてはこちらも参考にして下さい。
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代謝性アシドーシスとは?【詳しい原因や症状を分かりやすく解説】
血液が塩基性に傾く場合
血液が酸性に偏るアシドーシスとは逆に塩基性に偏る場合をアルカローシスと呼びます。これにも代謝性アルカローシスと呼吸性アルカローシスが存在するのです。
代謝性アルカローシスはアルドストロン症などの疾患で、塩基である重炭酸イオンが腎臓から再吸収されすぎるために起こることや、嘔吐で酸である胃酸が体外へ過剰に排出されることで起こります。
呼吸性アルカローシスはアシドーシスとは逆に二酸化炭素が排出されすぎて、血液中の二酸化炭素が足りなくなるために起こります。
呼吸性アルカローシスもアシドーシスと同じように慢性と急性のものがあり、こちらのアルカローシスも急性の方に注意が必要です。
混合型アシドーシス、アルカローシスというものがある
アスドーシス・アルカローシスにはそれぞれ代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスが同時に起こる混合性アシドーシスと呼ばれるものがあります。
混合性アシドーシスは代謝系の疾患である糖尿病やヘビースモーカーの方がかかりやすいCOPDと呼ばれる呼吸苦を起こす肺の病気などの呼吸系疾患が同時に起こることで起こります。
混合系アルカローシスとなる原因にはクモ膜下出血などの脳の疾患で過呼吸になり呼吸性アルカローシスになる一方で、なおかつくも膜下出血の治療として投与された腎臓に働く利尿剤の副作用によって引き起こされるアルカローシスが同時に起こっているのが特徴的です。
酸塩基平衡に異常発生!11の症状に要注意
代謝性アシドーシスの原因は一型糖尿病とよばれる糖尿病や慢性アルコール中毒、肺疾患や痙攣発作などにより乳酸値が高い状態や、腎不全により重炭酸イオンが吸収されない状態、および一酸化炭素やシアンなどの毒ガスや毒物によっても引き起こされます。
症状は悪心、嘔吐、および倦怠感を引き起こし、急激にアシドーシスが引き起った場合にはめまいなどを伴う低血圧や不整脈、昏睡などの意識障害を起こします。
呼吸性アシドーシスは急性の場合、頭痛や錯乱、昏睡状態を引き起こす場合があります。
COPDではゆるやかな呼吸性アシドーシスが続くのですが、ひどい場合には記憶障害や睡眠障害、精神障害まで引き起こすことがあります。
睡眠障害についてはこちらも参考にして下さい。
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代謝性アルカローシスは重症の場合、血液中のカルシウムが低くなってしまう低カルシウム血症になる場合があります、この結果、テタニーと呼ばれる手の痺れや、筋肉痙攣を引き起こします。
呼吸性アルカローシスは急性の場合のみ症状が発生し、慢性の場合は基本的に無症状で経過観察の場合が多いです。
急性の呼吸性アルカローシスではまず過呼吸や手足の攣縮が起こります。その後ふらついたり、錯乱を起こしたり、ひどい場合には失神に陥る場合もあります。
体内の酸塩基平衡について紹介しました。
基本的に特殊な疾患によってアシドーシスやアルカローシスは起こるものですが、呼吸性アシドーシスなどは喫煙や運動不足が積み重なって起こりうる肺疾患によって起こるので、この様な病気にならないためにも生活習慣の見直しを行いましょう。
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