鯨油の歴史まとめ【6つの用途や身体への影響を徹底解説!】
<監修医師 WASHIO>
クジラから採取された油を鯨油(げいゆ)と言います。その歴史は古く19世紀前半頃までは世界中で汎用されており、そのため、多くの国で盛んに捕鯨を行っていました。
日本では、古代から他の魚と同様に鯨も海の恵みとして利用され、石油が登場するまでは生活に必須の油でした。現在は鯨の捕獲が禁止されているため鯨油を見かけることがありません。
しかし、鯨油は少し前まで私たちにとってなくてはならないものでした。鯨はまだこの世に存在しているのに、私たちはほとんど何も知らないのです。鯨油はもう必要ではないのでしょうか。
今回は鯨油のことをその歴史から少し学びませんか。
気になる所から確認してみよう
鯨油の歴史
1850年代に書かれたアメリカの文学作品の「白鯨」は、当時、アメリカで盛んだった鯨油を取るための捕鯨船を舞台とした物語です。
白鯨を求めた航海先は太平洋の日本沖から南下した赤道付近です。長い航海をしながら白鯨を見つけて追撃するまでの3日間が語られています。
この物語のように、日本では、江戸時代末期にアメリカを中心とする欧米列強の捕鯨船がベーリング海峡・アリューシャン・千島沖・日本近海へ進出し活動するようになりました。
幕末に海外の船が多く見られるようになったのはこの捕鯨船が増えたからだと言われています。
開国を迫ったペリーも、そもそもの目的は捕鯨で太平洋で捕鯨するための食料と燃料の補給ができる場所を日本に求めに来たといいます。
各国で遠洋での捕鯨が盛んになったため、日本近海に回游する鯨の頭数が急速に減少し、日本の捕鯨業は不振となり捕獲高が激減したと言われます。
鯨油の用途
鯨油用途の歴史
石油が登場する19世紀の半ばまでは油といえば鯨油が多く使われました。その用途は灯火用の燃料油・ろうそくの原料・機械用の潤滑油・皮革用の洗剤の他、マーガリンの原料としても利用されました。
また、庶民にとってはクジラから大量に取れて安価で手に入る鯨油は灯火用の油として生活にはなくてはならないものでした。
採油は原料となる部位を細かくして釜に入れて煮るなど加熱する融出法で行われ、分厚い皮下脂肪層からの採取が主に使われましたが骨や内臓も原料となりました。
欧米では、捕鯨の主な目的は鯨油の原料採取で、皮下脂肪層、骨や内臓の他は鯨髭と鯨歯のみを利用するだけで鯨肉をはじめとする他の部分のほとんどは廃棄していました。
しかし、日本では鯨は捨てるところがないといわれるほど利用途が多く
鯨肉と軟骨(松浦漬や玄海漬など)は食用、
鯨髭・歯や笄(こうがい)は櫛などの細工、
髭毛は鋼、鯨皮は膠(にかわ)や鯨油、
筋は弓弦などの武具、
鯨骨は鯨油や肥料、血は薬用、脂肪は鯨油、糞は香料(竜涎香(りゅうぜんこう))に加工して用いられました。
さらに、鯨皮から鯨油を絞った残りかすの「油かす (食品)」 を食用とする習慣もありました。
欧米では油以外はほぼ利用しなかったのに対して、日本では何ひとつ無駄にせずクジラ全てを利用していたことに驚きます。
鯨油の種類
鯨油には、マッコウクジラに代表されるハクジラから採取される「マッコウ油」とシロナガスクジラに代表されるヒゲクジラから採取される「ナガス油(狭義の鯨油)」の2つに大別されます。
この2種は成分に大きな違いがありマッコウ油は人間には消化できない成分(ワックス・エステル)を含むため主に工業用に利用され、ナガス油は食用を含め幅広く利用されました。
また、鯨油は主に普通皮から採りますが他の場所にも油をたくさん含んでいる部位もあり、そこから取れた鯨油は「特殊な鯨油」と呼ばれました。
鯨蝋はマッコウクジラの頭から採ることができる油脂で「脳油」とも呼ばれ、肝臓から採れる油脂は「肝油」と呼ばれます。
脳油
温度により状態が変化しやすく、マッコウクジラはその温度を変化させ油の比重を利用して浮き沈みをしています。主にろうそくや機械の潤滑油、化粧品、塗料、シントレッキス(界面活性剤)、グリセリン、ポマードの材料などに使われました。
肝油
ビタミン類などがたくさん含まれており、戦後以降、学校給食にも出されました。しかし、肝油は匂いがきつく苦かったため子どもでも飲めるようにゼラチンのカプセルに詰めた肝油球やゼリー状にして糖衣した肝油ドロップとして出されていました。
灯火用の燃料
世界中で最も古くから使われている油です。魚油よりも匂いが少なく植物油よりも安価だったため、石油の登場まで特に庶民に繁用されていました。
石鹸・皮革製品
石鹸の原料となり、皮革製品の製造過程にも使われました。
火薬
20世紀初期にはダイナマイトの原料であるニトログリセリンの製造に用いられました。
農薬
水田の害虫駆除用に用いられました。江戸時代に開発された技術で、水田に流して油膜をつくり、そこへイナゴなどの害虫を叩き落として窒息させる虫よけとして使われていました。
なお、鯨油以外にも魚油や植物油、後には石油も同様に使用されていますが江戸期の農書には鯨油が最上であると記されています。
機械用潤滑油
低温でも凝固しにくいため、冷地における軍事用車両機械用の潤滑油に重宝されました。
食用・調理油
20世紀初頭に水素化による硬化技術が開発されたためマーガリン製造に多用され、第二次世界大戦後に広く使用されています。ショートニングの原料にもなりました。現在のマーガリンの主な原料は牛脂です。
マーガリンやショートニングについてくわしくはこちらを参考にして下さい。
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身体への影響
心血管系疾患の病気の予防
鯨油には不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が豊富に含まれています。
EPAやDHAといえば青魚に多く含まれることで有名ですが脂質低下作用などの健康に良いさまざまな効果が期待されています。EPA・DHAはクジラ以外の哺乳類の肉にはほとんど含まれていません。
EPA・DHAはオメガ3不飽和脂肪酸であり、健康効果が世界的に注目を集めています。
また、ごく一部の鯨油だけに含まれるDPAは、EPAやDHAの10倍以上の作用をするといわれる注目の成分で、現在、カナダでは様々な研究がすすめられています。
DHA、EPA、DPAは血管の中に血栓をできにくくし血管の劣化を防ぐ効果があるといいます。
脂質を取りすぎると血中コレステロールがアンバランスになりますが、コレステロールのバランスを正常に保ち中性脂肪を減らし血中成分を正常に保って、血液の状態を安定させて高血圧などの血圧異常も正す働きがあります。
動脈硬化症、脳硬塞、脳出血、狭心症、心筋梗塞など現代人に多い心血管系疾患の病気にもかかりにくくなり改善作用があるといわれています。
EPAやDHAについてくわしくはこちらを参考にして下さい。
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内臓脂肪や中性脂肪の低下による脂肪肝の改善効果
マウスを使った動物実験において、肥満マウスに鯨油が含まれていない餌(通常食)と鯨油を含む餌のそれぞれ10週間を与えたところ、
鯨油が含まれていない餌を与えた肥満マウスに比べ鯨油を含む餌を与えた肥満マウスの内臓脂肪量、中性脂肪量、総コレステロール量が大幅に低下し、顕著な改善効果が確認されました。
ただし、皮下脂肪量にはほとんど差がありませんでした。
脂肪肝についてくわしくはこちらを参考にして下さい。
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