メイロンの作用と副作用をしっかり解説【点滴方法など使い方も紹介】
<監修医師 サリー>
メイロンはアシドーシス改善薬として、救急外来や集中治療室で使われる頻度の高い薬です。救急外来以外でも、めまいや内耳治療に使われることもあります。
このように、医療の現場では一般的に使われている点滴になります。
しかし一方で、エビデンスがはっきりしない、根本的な治療にならない、ということでメイロンの使用に疑問を持つ人もいます。
今回はメイロンの作用と副作用、その作用機序についてみていきましょう。
気になる所から確認してみよう
メイロンはこんな時に使います
メイロンに添付されている基本情報では、適応となる疾患に以下の物が挙げられています。
アシドーシス
体内がアシドーシスに傾き、日常生活や生命活動に支障をきたすレベルになると予想されれば、アシドーシス改善目的に使われることがあります。
アシドーシスの症状には悪心、嘔吐、頭痛、意識障害、痙攣などがあります。重症化すると多臓器不全、致死的不整脈などの原因になります。
薬物中毒
用量を越えて薬を誤飲してしまった場合や、故意に薬物を大量摂取した場合にメイロンを投与して薬物の尿中排泄を促します。
対応となる薬物にはアスピリン、バルビタール等の弱酸性薬剤(三環系うつ薬)などがあります。
めまい(動揺病、メニエール症候群、内耳障害)
急性のめまい症状に対して、対症療法としてメイロンが使用されます。
しかし何故めまいに効果があるのか、はっきりとしたエビデンスがわかっていません。
予想されている作用機序としては、点滴によって増加した炭酸水素イオンが内耳への血流を上昇させるためにめまいが改善していると考えられています。
またメイロンの中に含まれている炭酸水素ナトリウムが、耳石を溶解するため効果があるという意見もあります。
急性蕁麻疹
症状が出現してから、1か月以内に症状がおさまる蕁麻疹を急性蕁麻疹といいます。
急性蕁麻疹の原因の一つにアシドーシスが関係している事があるため、メイロンが選択されることがあります。
ただし1か月過ぎても症状が続く慢性蕁麻疹に対しては適応されません。
メイロンの作用や効能をしっかり理解しよう
メイロンには体内のアシドーシスを迅速に改善する効果があります。ここではその作用機序を見ていきます。
人間の体内は常に弱アルカリ性を保っています。これが何らかの原因で酸性に傾いてしまう事でアシドーシスという状態になり、様々な症状を引き起こします。
以下で、メイロンの体内での反応を見ていきましょう。
メイロンは炭酸水素ナトリウム(Na HCO3)を主成分とした薬になります。血中に投与することで、炭酸水素イオンを増加させ、水素イオンを減少させます。
✅ (HCO3-) +( H+) → H2O + CO2
血液中では酸性を示すイオン(H+)が減少しアシドーシスが是正されます。反応の産物として二酸化炭素と水の発生を促します。
この時、増えた二酸化炭素によって血管が拡張されることで、内耳への血流が改善、さらにメイロンによる耳石の溶解によってめまいが改善すると考えられます。
メイロンは点滴で使用します
メイロンは静脈注射で使用します。体重、BE(Base Excess)から必要塩基量を計算して投与量を算出していきます。計算式は以下の通りです。
✅ BE×体重(kg)×0.2~0.3=必要塩基mEq
滴下速度は 10mEq /分以下 となります。理想は 2mEq / 分前後 です。
流通しているメイロンには7%と8.4%があります。それぞれ含まれる塩基量が違うので、正確な量を算出する時に注意してください。
✅ 7% 17mEq=20ml
✅ 8.4% 20mEq=20ml となります。 |
投与時は、原液のまま落とすことも可能ですが、血管外に漏出することで炎症や壊死を起こす危険性があります。
注射用水や5%ブドウ糖注射液に希釈しゆっくり静脈内点滴することが望ましいでしょう。
またメイロンはカルシウムと結びつきやすい性質があるため、カルシウム製剤との混注は行わないようにしましょう。
メイロンの使用に注意が必要な7つのタイプ
メイロンは投与することで迅速なアシドーシス改善作用がありますが、副作用として低カリウム、低カルシウム、高ナトリウムになるリスクがあります。
そのため以下の疾患を持つ人には慎重な投与が求められます。
特に高齢の方では以下の疾患を持つ人も多いため、確認してから投与するようにしましょう。
うっ血性心不全、重度の高血圧
メイロン中にはナトリウムが多く含まれています。
ナトリウムの増加によって循環血液量増加を起こしやすいことから、心臓に過負荷を与える恐れがあります。
またナトリウムが増加することで高血圧を悪化させることがあります。
腎障害
循環血液量、ナトリウム量が増加するため腎臓への負担が増大します。
全身性のむくみ・肺に浮腫がある
心不全や腎不全が原因となって肺水腫が起こっている人も注意が必要です。体内水分量が増えるため、症状が増悪する恐れがあります。
低カルシウム、低カリウム
軽度であれば問題ありませんが、重度になると心不全や重症不整脈、不随運動、感覚賞が、嘔吐、悪心、などが出現することがあります。
妊娠中毒症
循環血液量とナトリウムの増加により、妊娠中毒症が悪化する恐れがあります。
心停止状態
心停止状態のアシドーシスにメイロンは推奨されません。なぜならメイロンにはカテコラミンの作用を減弱し、体内の二酸化炭素量を増加させ、低カリウムを起こす作用があるからです。
少量の使用は効果があったというエビデンスがありますが、それ以上では心肺蘇生に成功したという報告はほとんどありません。
新生児、小児
新生児や小児に高濃度のまま投与することで頭蓋内出血を起こしたという報告があります。
必要最小量を希釈し2%以下の濃度にしてから緩徐に投与するようにします。
メイロンに心配な副作用はあるの?
メイロン投与時に起こり得る副作用には以下の物が考えられます。症状も合わせて詳しくみていきましょう。
アルカローシス
メイロンの過剰投与によって逆にアルカローシスを起こすことがあります。アルカローシスの症状としては、吐き気や四肢のしびれ、筋肉のけいれんといった症状が起こります。
低カリウム
軽度であれば無症状ですが、中程度から重度になると筋力低下、立位困難、悪心、嘔吐、痙攣がおこります。
さらに進行すると致死的不整脈、自律神経失調といった症状も起こります。
低カルシウム
カルシウムは体内で筋肉の収縮や細胞機能調整、自律神経の調整作用があります。
軽度の不足では無症状の事が多いですが、中程度から重度不足状態になると心収縮力低下、心電図のQT波延長、テタニー(手足や口唇のしびれ、四肢の痙攣、不随運動、感覚障害)、低血圧、徐脈、全身冷感、悪心、精神症状が現れる事があります。
高ナトリウム
口渇感、血圧の上昇と急激なむくみ、発熱が起こります。
適正な処置をしないまま高ナトリウム血症が続くと意識障害、痙攣、錯乱といった症状を起こし、重要な血管系の障害を起こすことがあります。
静脈炎、壊死
メイロンはpHが高いため、血管内膜の損傷が起こりやすい薬剤です。血管外から漏出してしまうと細胞損傷から壊死を起こしてしまう事があるため注意してください。
重症アシドーシスを起こしている人は、意識障害を起こしていることがほとんどです。
そのため血管痛や静脈炎を観察者に発信できず、また体動によって良肢位の保持が困難な場合が多いと考えられます。
メイロン滴下時は定期的に刺入部位の観察を行いましょう。
効果も副作用も関係しているアシドーシスとアルカローシスとは
人間の体内は常にpH7.35~7.45に保たれています。アシドーシスやアルカローシスという名称は、この正常範囲を逸脱した際に呼ばれる名称になります。
そしてその逸脱した原因によって、呼吸性アシドーシス、呼吸性アルカローシス、代謝性アシドーシス、代謝性アルカローシスと分けられています。
アシドーシス
基本的な考え方として、アシドーシスは「酸性物質の蓄積」か「塩基性物質の喪失」の2つしかありません。
✅ 呼吸性アシドーシスの原因
呼吸性アシドーシスは「酸性物質の蓄積」が原因となって起こります。
呼吸には酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出すという働きがありますが、この働きがうまくいかないと体内で酸性を示す二酸化炭素量が増加し、アシドーシスに傾くことになります。
原因となる疾患にはCOPD、呼吸不全、窒息などがあります。
✅ 代謝性アシドーシスの原因
代謝性アシドーシスは「酸性物質の蓄積」と「塩基性物質の喪失」がそれぞれ原因となっています。
酸性物質が溜まってしまう原因に、糖尿病性ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス(アルコール中毒、腎不全、肝不全、悪性腫瘍による全身状態悪化)、ショック状態などが考えられます。
塩基性物質の喪失を起こしてしまう病態には、下痢や腎不全があります。
腸液の中には多量の塩基性物質が含まれているため、下痢などで大量に腸液を排泄してしまうと、体内が酸性に傾いてしまうためです。
また、腎臓は塩基性物質を排泄、再吸収して調整していますが、腎不全になると塩基性物質の再吸収がうまくいかなくなり、酸性に傾くことがあります。
アルカローシスの種類
アルカローシスの原因は「酸性物質の喪失」か「塩基性物質の蓄積」です。
✅ 呼吸性アルカローシス
呼吸性アルカローシスの原因は「酸性物質の喪失」になります。これは先程の呼吸性アシドーシスの逆で、二酸化炭素が排出され過ぎる事で起こる変化です。
原因には過換気症候群、呼吸中枢の障害、人工呼吸器によるものなどが考えられます。
また細胞レベルで酸欠状態が起こると血管内がアルカローシスに傾くこともあります。
✅ 代謝性アルカローシス
代謝性アルカローシスの原因は「酸性物質の喪失」と「塩基性物質の蓄積」になります。
まずは酸性物質の喪失について見ていきましょう。
私達の体の中で、特に酸性物質を多く含む場所に胃液があります。胃液が体外に出てしまうことで酸性物質を喪失することになってしまいます。
このため代謝性アルカローシスの原因には大量の嘔吐のほかに、胃菅からの過剰吸引も原因になることがあります。
次に塩基性物質の蓄積によって起こされるパターンを見ていきます。
塩基性物質は体内で大量に産生される事はありません。このため塩基性物質が蓄積してしまう原因は、外部から過剰に塩基性物質を取り入れたか、腎臓からの塩基性物質の排泄が進まない場合のどちらかです。
原因には、メイロンや輸血の過剰投与、ループ利尿薬による塩基性物質(HCO3-)再吸収促進があります。
このようにアシドーシス・アルカローシスの原因には、大きく分けて4種類あることが分かりました。
しかし注意して欲しい点に、必ずしも1種類のみが原因となってアシドーシス・アルカローシスを起きているのではないという事です。
症例の中には代謝性アルカローシスが引き金となって呼吸性アシドーシスを併発している、というパターンも見受けられます。
何が原因となっているのか判断する際には、血液ガスや諸々の検査、既往歴、家族への情報収集を十分に行うようにしてください。
メイロンとその作用機序、アシドーシス、アルカローシスについて見ていきました。メイロンはめまい治療やアシドーシスの是正にとても効果が高い事で知られています。
しかし副作用の危険性はもちろんの事ですが、一時的な対症療法という事を忘れないでください。使用するときは、アシドーシスやめまいを起こしている原因にも目を向けるようにしましょう。
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